第532話 懇願

「呼びかけても無駄だよ」

 二人を無視し、ひたすら無線で味方に呼びかける国王に上代琉生が告げる。

 証拠と言わんばかりに、スマホを見せる。

「そ、そんなものっ……!」

 突きつけられたスマホの画面にはいくつもの写真が写っていた。

 雷の物体を操っていた指揮官が縄に縛られた姿。味方の兵が全員もれなく捕まっている姿。

 二つの決定的証拠を見せられて国王を顔を青ざめる。

 だがまだ認めようとしない。

 恐らくどんな物を見せても今の国王は信じようとしないだろう。

 もはや現実から目を背けて自暴自棄になってしまっている。

「真実です。ですので我々はあなた方と和平交渉をしにきました」

 エルはそれでも諦めずに交渉を持ちかける。

 既に敵の負けが決まっている状況の中でも、エルは相手と対等に話し合おうとしているようだ。

「――和平……じゃと?」

 そんなお人好しなエルだからか、国王はわずかに反応を示した。

「はい和平です。戦いなんてせずに私達と話し合って、協力して生きていきませんか?」

 エルはただ切実に懇願する。争いなどやめて、仲良くしたいと。

「き、貴様化け物どもと仲良くするだと!?ふざけるな!我々は貴様にどれだけの人が殺されたと思う!?貴様ら化け物は人間の敵だ!どうしてそんなものと仲良くしなければならないのだっ!」

 しかし国王の胸にはエルの言葉は届かなかった。

 自身が圧倒的不利な立場にいるにも関わらず、国王はただ自分の思い――怒りをぶつける。

 異世界人は全員敵だと。

「我を殺すならば殺せばよい!だがなっ!貴様等化け物どもはいずれ人類が滅ぼす!!」

 よっぽど異世界人に恨みを持っているのか、国王はとうとう自分の命を捨ててまで必死にあらがう。

 そこまでして異世界人のことを認めない態度にエルは流石にたじろく。

「どうしてそこまで異世界人を嫌うんだ。お前達も同じ魔法を使っておいてどうして?もはや人の姿をした異世界人とお前達人間は何も変わらない存在にあるつつあるのを分かっているのか?」

 しかし上代琉生はそんな国王に怯まず、本音をぶつける。

 現にエルは人の姿と何ら代わりはない。


 それでも敵は異世界人を嫌い、恨む。

 上代琉生はその気持ちが全く分からなかった。

「そ、それはっ……」

 そして国王は上代琉生の言葉に口を濁す。

 核心を突かれてしまい、何も言えない様子だった。

「お願いします。私達のことを憎んでいるのは分かっています。ですがどうか私達の話しをだけでも聞いて下さい。そしてもしよければあなたの意見も話してくれると嬉しいです」

 狼狽える国王を見ながらエルはそっと優しく懇願するのだった。

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