第531話 現実

「――分かりました。それではすぐにこっちも動きます」

「向こうは終わったの?」

「はい。そうみたいです」

 無線を切り終えた上代琉生はすぐに答える。

 康生が無事だったという報告を受け、少なからずエルはほっとする。

 でも今は気を抜いている場合じゃない。

 エルはそれも分かっているからこそ、上代琉生に注意される前に気を引き締める。

 時雨さん達が頑張ってくれた。

 だから今度はエル達の番だった。

 敵の基地はすでに壊滅寸前。

 残りを仲間に任せて、エルと上代琉生は早々に敵の大将――国王がいる馬車の目の前にいた。

 敵が壊滅しているにも関わらず、まだ撤退しようとしないのは恐らく雷の物体があるからこそのことだ。

 あれがある限り負けないとふんでいるのだろう。

 だが敵の最後の要である雷の物体を撃破した以上、敵の戦力は皆無に等しかった。

 だからこそエルと上代琉生の二人でこうして交渉の席を作ろうとしたのだ。

「国王っ!話がある!」

 馬車にゆっくりと近づいていきながら上代琉生は叫んだ。

「誰だっ!」

 しかし窓から顔を出した国王はすぐに表情を曇らせる。

「お、お主等は……。ど、どうしてここにっ!?」

 明らかに動揺するように、国王の声が震える。

 周りには護衛がいたが、すでに全員眠らせている。

 誰も自身を守ってくれる者がいない状況で、敵の主要メンバーの二人が目の前に現れて動揺しないはずがなかった。

「話をしにきたのよ」

 だがそんな国王が落ち着くのを待っている時間はなく、エルが一歩前に進み声をあげる。

 状況は上代琉生達が整えた。

 後は夢を叶えるためエルが頑張らなければならなかった。

「ば、化け物どもと話すことなど何もないわいっ!ええぃっ!奴らはどこにいったっ!あの兵器は何をしているっ!?」

 しかしそれでもまだ国王はまともに取り合うつもりはないようだ。

 それに雷の物体がいなくなっていることもまだ耳にしていない様子だ。

「あなたの仲間はすでに全員私達が拘束したわ。そしてあなたの言う兵器もすでに無力化済みよ」

「なっ……!?な、何をバカなことを言っておる!あれは対化け物用に作った最高傑作だぞ!貴様化け物どもにどうにかできるわけあるかっ!――おい!反応しろ!我の元に敵が侵入してきているぞっ!」

 エルの言葉が信じられずに国王は罵倒を浴びせながら無線を使って仲間を呼びかける。

 だが無線機から流れくる音は人の声ではなく、ザザザザザという無機質な機械音だけだった。

「くそっ!どいつもこいつも何をしているっ!?応答しろっ!!」

 現実を認めたくない一心で、国王はひたすら呼びかけるのだった。

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