第530話 無茶

「さぁこい康生っ!絶対にお前に人を殺させやしないっ!」

 時雨さんが構えると同時に康生が拳を突き上げる。

 間一髪のところでそれを防ぐことに成功した時雨さんは決して喜ぶことなく、さらなる迎撃に備える。

 当然康生は一度攻撃が避けられた程度で飽きらめることない。

 二撃、三撃とさらなる攻撃を繰りだそうとしてくる。

「ぐっ!」

 しかし当の時雨さんは一撃、攻撃を避けるだけで全力を尽くしきってしまう。

 さらなる攻撃はとてもじゃないが回避出来そうになさそうだ。

 しかも康生はさらに攻撃の威力もスピードもあげてくる。

 ほんのわずかだったが、時雨さんにはこれだけしか康生を足止めできなかった。

「後は任せて下さいっ!」

 だがそのわずかの時間で奈々枝とリリスは準備を終える。

 時雨さんに向かっていく康生に対して奈々枝が縄を飛ばして拘束する。

 だがその程度のもので康生の動きが止められるはずがなく、一瞬のうちに縄がちぎれてしまう。

 それでも目の前の時雨さんを殺そうとしているのか、奈々枝のことなど気にせずに拳を振り上げる。

「お前はもう休め」

 時雨さんに集中しているのが好都合となり、康生はリリスの接近を許してしまう。

 縄でわずかに拘束出来た分、一瞬の動きの止まった康生の体にリリスはそっと手をのせる。

「これで終わりじゃっ!」

 リリスが叫ぶと同時に康生の動きが一瞬で止まってしまう。

 そしてそのまま目をゆっくりと閉じて康生は地面に倒れた。

「康生っ!」

 突然倒れた康生の元に時雨さんがすぐに駆けつける。

「どうなったんだ?康生はどうしたんだっ?」

 康生に殺されかけたいうのに、時雨さんはすぐに康生の身を案じる。

「安心するのじゃ。康生は眠っているたけじゃ。こやつのおかげで魔力暴走に関するデータが沢山集まったからの。それで魔力暴走を止めたというわけじゃ」

「よかった……」

 痛々しい康生の姿をこれ以上見たくなかった時雨さんはほっと一息ついた。

 そしてリリスが魔力暴走を止める手段を解明したのは、康生が以前戦った青い炎を使う異世界人のおかげだった。

 康生が助けたおかげで、現在康生の魔力暴走を止めることが出来たというわけだ。

「本当によかった……」

 安否を確認したからか、時雨さんの緊張が一気に解けて危うく気を失いそうになってしまう。

 だが寸前のところで気を持ち直して改めて周囲の状況を確認した。

「リナ……ザグ……。二人は大丈夫なのか?」

 いつの間にか奈々枝が連れてきたであろう異世界人達が二人を治療していた。

 ザグも相当だが、リナさんは最後の最後に無茶をしたせいで相当ダメージが溜まっていた。

「安心せい。命に別状はない。貴様も早く休め」

 そう言われて時雨も安心して気を休めたのだった。

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