第529話 駆使

「ありがとうございますリリス様っ……」

 指揮官を倒れたのを確認したリナさんはゆっくりと地上に降りて、地に手をつく。

 あれだけの雷の物体の攻撃を一身に食らったのだ。

 ダメージは相当溜まっていた。

 雷魔法を瞬時に展開させ、同時に魔力を使って雷を操って攻撃を回避してみせた。

 しかしあれだけ無数の攻撃を相手にして、全て防ぎきることは出来なかった。

 咄嗟に雷を纏ってもすぐに吸収されてしまうため、装備と運に頼っての作戦だった。

 その結果なんとか攻撃を防ぎきることは出来たが、相当なダメージを負ってしまったということだ。

「すまないが今はお前に構っている余裕はないからのっ」

 そんなリナさんの横をリリスは駆けていく。

 リリスの向かう先は康生とザグがいる場所だ。

 あれだけの攻撃があったにも関わらず康生はまだザグを相手に攻撃をしていた。

 それもザグが一身に康生の相手をしていたからに他ならない。

 だからなんとしてもザグの頑張りに報いるためにリリスは動く。

「私も行くぞっ!」

 そしてその後に比較的ダメージが少ない時雨さんがついて行く。

 時雨さんも康生を助けるためにいても立ってもいられなかったのだ。

「時雨さんはわずかでもいいので英雄様の注意を引きつけてくださいっ!」

「分かったっ!」

 いつ間にかザグの近くに移動していた奈々枝がすぐに指示を出す。

 指示を聞いた時雨さんはすぐに長刀で康生に攻撃を仕掛ける。

 いくらザグを相手にしているといっても、周囲から攻撃をされれば康生はすぐに反応する。

「おいっ、何してんだっ……」

 康生と一対一で戦っていたザグはすぐに時雨さんの攻撃に反応しようとするが、寸前のところで言葉につまる。

 どうやらダメージが大きすぎて思わず反動がきてしまったようだ。

「お兄ちゃんは休んでてっ!時雨さん!数秒でもいいから英雄様をよろしくねっ!」

「あぁっ!任せろっ!!」

 奈々枝はすぐにザグに休むように伝え、リリスと合流する。

 そして時雨さんは康生と対峙しながら必死に自分を奮い立たせる。

 ザグが勝てない相手だ。時雨さんだと一瞬で殺さねかねない。

 だが時雨さんもここが正念場という限りに必死に全身に力を巡らせる。

「武装解除っ!!」

 ここぞという時に武装解除を発動し、まずは康生の初撃を回避する。

 しかし一回目の攻撃だったからこそ、動きが少し鈍かった。それは時雨さんの実力を知っているからこその力加減だった。

 だがその油断のせいで康生は攻撃を外してしまい、今度こそ確実に殺すために拳を振り上げる。

「まだまだっ!!」

 一撃を防ぐことすら寸前だったのに対して、次の攻撃は康生の本気が感じられる。

「さぁこい康生っ!絶対にお前に人を殺させやしないっ!」

 康生のためにも時雨さんは持てる限りの力を駆使するのだった。

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