第525話 舌打ち

「くそっ!いい加減気絶するなりしやがれっ!」

 ザグが必死に康生の懐まで入り込んで攻撃を繰り出す。

 攻撃を回避することが多いザグだったが、隙さえあれば攻撃を入れる姿勢は相変わらずだ。

 『解放』の力を完全に使っている康生相手にここまで一人で戦えていること自体すごいのだが、ザグはこの状況の中ですら康生に勝とうとしていた。

 とはいえ今の康生には理性がない。

 理性がなければいくら力があっても動きが単調になってしまう。

 ザグはその隙をくぐってなんとか攻撃を当て続けているが、ザグも無限に戦い続けられるわけじゃない。

 康生の理性がないことと、ザグの力と特製の装備がいい感じに力の均衡を保っていたが、戦いが長引けば均衡が大きく変わってしまう。

 ザグは気絶させることを目標にしているみたいだが、今の康生には痛みがない。

 正確にいえば魔力暴走により康生は気絶している状態だ。

 意識を失ったまま、ただ本能的に敵を倒すという強い思いのみで康生は動いている。

 だからこそ疲れがなく、魔力も供給され続けるので長時間戦えば戦うほどザグは不利になっていく。

「ぐっ……!」

 重い一撃をいれたザグだったが、康生はひるむことなく攻撃を返してくる。

 咄嗟に防御の体制をとるも、今までの戦闘での疲れもあってか満足に回避することが出来ない。

「くそっ!いくらやってもキリがねぇっ!」

 吹き飛ばされながらもザグはなんとか体制を整えながらすぐに構える。

 当然康生はそんなザグを追いかけてさらなる攻撃を仕掛けてくる。

「全くよぉっ!こんなんでお前と再戦なんてしたくなかったぜっ!」

 死ぬ気で体を動かしてザグは再び康生と衝突する。

 一発一発が重い攻撃を全て目視で回避し、攻撃が避けることだけに集中する。

 それでも攻撃がかすることがあるが、今の状況で一瞬でも怯めば今度こそ攻撃をぶち込まれて体が動かなくなってしまう。

 ここが正念場と言わんばかりにザグは最後の力を振り絞って康生の相手をする。

「おらおらっ!今のお前なんかに負けるわけにはいかねぇんだよっ!」

 ザグは再び吠えながら死力を尽くそうとするのだった。




「リナっ!流石にザグがきついぞっ!」

 ザグが叫ぶのを聞いた時雨さんは咄嗟に反応する。

 すぐにでも助けにいきたいがリナさんがそれを阻む。

「今行ってお前は何が出来るっ!?康生に殺されるだけだっ!」

「くっ……!」

 確かに現状、時雨さんが行ったところで何も出来ないのは目に見えている。

 それでもザグを見殺しにすることは出来ない。

 そんな心の葛藤に時雨さんは苦しみの表情を浮かべる。

「はっはっはっ!ようやく我らの勝利が見えてきたなっ!」

 戦場の様子を見て指揮官は一人高らかに笑い、さらに攻撃を激しくさせる。

「ちっ」

 リナさんは舌打ちをこぼしながら回避をする。

(早く来てくれっ。でないと本当にっ……)

 リナさんは焦燥感に駆られる。

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