第523話 叫ぶ

「――それで私は何をしたらいいの?」

 ザグ達が戦っている最中、エルは上代琉生と共に行動していた。

 遠くからは爆発音と共に、激闘の様子が伝わってくる。

 だけど明らかに康生がいる方向とは遠ざかっているようだった。

「俺達は最優先でやることがある」

「康生を助けることじゃないの?」

 エルにとって現状、優先すべきことは康生の安否だ。

 魔力暴走してしまった康生を助けることが最優先事項だった。

「それは皆を信用して任せて下さい。少し言い方はひどいですけど、この戦いのために英雄様だけに力を割くべきではないです」

 あくまでもこの戦いに勝利するために上代琉生は行動している。

「英雄様のことが気になるのは分かりますが、今は皆のためにも協力して下さい」

「う、うん……。でも何をするのかはちゃんと教えて」

「分かってますよ」

 そうしてエルは上代琉生から今後の作戦を聞く。

 その内容は敵の頭、つまり国王の元へ行き交渉をすることだ。

 上代琉生は参謀として。エルは代表として今から向かうようだった。

 とはいっても、まだ康生のことが終わってない以上話し合いの席を設けることは難しい。

 だから康生のことはザグ達に任せて、敵の最終兵器である雷の物体を倒すことが前提条件だ。

 敵の最終兵器を撃破し、敵が慌てている瞬間に交渉を持ちかけるというものだ。

「とはいえ無闇に国王のところまで近づくのも危険ですので、気をつけて下さいね」

「うん。分かってる」

 周囲に護衛のため部下を配置しているが、それでも敵のほとんどの勢力が集まっているはずだ。

 両者状況が拮抗している以上、敵も何をしてくるか分からない。

 だからこそ上代琉生は慎重に足を進めるのだった。




「大丈夫かザグっ!?」

 康生に吹き飛ばされたザグを見て時雨さんが心配そうに声をかける。

「時雨っ!危ないぞっ!」

 だがザグに注意を向けていた時雨さんの元に、雷の物体が攻撃を仕掛ける。

「すまないっ!」

 リナさんのおかげで間一髪のところで回避に成功する。

「なっ!?」

 しかしザグが吹き飛ばされてしまったせいか、康生は次の相手を求めて時雨さん達に視線を向ける。

「くそっ!気合いを入れろよ時雨っ!」

「あぁっ!」

 康生と雷の物体、両方の相手をすることになった二人はすぐに気合いを入れて対処しようとする。

 しかし、

「まだ俺は負けてねぇぞっ!!」

 二人へと向かっていく康生めがけて、ザグが叫びながら攻撃を入れる。

「こっちのことは心配すんなっ!だからおめぇらはそっちに集中しろっ!」

 全身を傷だらけにしながらも、それでもザグは康生と一対一で戦う。

「くそっ。リナっ!こっちはこのまま逃げ続けるだけでいいのかっ!?」

 ザグ一人が頑張っている最中、ひたすら攻撃を避けることしか出来ない時雨さんは苛立ちを見せる。

「あと少しの辛抱だっ!それまで力を溜めておけっ!」

 リナさんは何かを待つように叫ぶのだった。

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