第518話 好転


『困っているようだな』


「――えっ?」

 突然奈々枝への無線から一つの声が聞こえる。

『今までよく踏ん張ってくれた。後は任せろ』

「ちょ、ちょっとっ……!」

 無線はそこでぷつりと途切れた。

 奈々枝はすぐに無線をつなぎなおそうとするが一向につながる様子がなかった。

「どうした奈々枝」

 必死になって無線をつなごうとする奈々枝に気づいたザグはすぐに心配そうに声をかける。

「い、今……隊長の声が」

「隊長っていうと……上代琉生か?」

「う、うん。後は任せろって……」

「でもあいつらは異世界にいるんだろ?」

 ザグの言う通り上代琉生は、時雨さんとリナさんをつれて異世界へ行っているはずだ。

 しかもリリスを助けるために会議に参加している。

 なのにどうしてこんなところにいるのか。奈々枝はすぐに疑問に思った。

 だがあの上代琉生が、いくらここがピンチとはいえ異世界のことを放棄してここに来るはずがない。

 だったら……。

「リナさんっ、時雨さんっ、頼みますよっ!」

「あぁっ!任せろ康生は私が助けて見せるっ」

「ふっ、ようやく私も戦いに参加出来るなっ」

 奈々枝が思考を続けていると、背後から三人の声が聞こえてくる。

 そして声の主を確かめようとする前に、奈々枝達の上空を二つの影が通り過ぎていく。

「今のは……」

 二つの影をしっかりと見た奈々枝はすぐに時雨さんとリナさんだと気づく。

「皆っ、すぐにこの装備をつけてくれ」

 二人が康生の元へと向かっていく中、突然現れた上代琉生が奈々枝達に特製の装備を手渡してくる。

「あぁ?お前いつの間に……。それにこれは一体……」

 いきなりの急展開にザグはついていくことが出来ずに混乱しているようだったが、上代琉生がせかすように言ってきたのでザグは訳が分からないまま装備を身につける。

「皆が来てくれたってことはリリスの会議は無事に終わったってことなの?」

 言われた通りすぐに装備を着用した奈々枝はすぐに上代琉生の元へと行く。

「いや、まだ会議は続いている。だが俺のやるべきことはやった。後はリリス次第だ」

「そっか」

 上代琉生が来てくれたことで、奈々枝は少し安心したように表情を緩める。

「おいっ、いい加減説明しろっ。これはなんなんだっ。それにあいつら二人を康生の元に行かせてよかったのかっ?」

 未だ状況が把握出来ないザグは上代琉生につっかかるように尋ねる。

「その装備はリリスのとこのメルンが開発した装備だ。本来は英雄様が力を行使する際に体への負荷を軽減するために作られたものだ。だからそれをつけていればこの暴風の影響が和らいで英雄様に接近できる」

「メルンの奴か」

 確かに装備をつけたザグは今までの辛い風圧が感じなくなっていることに気づく。

「それより康生は助かるのっ!?」

 装備を着て安全になったエルはすぐに康生の身を案じる。

「それも任せて下さい。恐らく助けることは可能です。その為に皆協力して下さいね」

 そうして上代琉生達が異世界から戻ってきたことにより、状況は一気に好転するのだった。

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