第517話 焦燥感
「見えたぞ……」
嵐が吹き荒れる中、必死に地面にしがみつきながらザグは康生を見つける。
「駄目っ!あんなに無茶な戦いからしたらすぐに壊れちゃうっ!」
康生の姿を見たエルがすぐにでも駆けつけようとする。
奈々枝から冷静になれと言われていたエルだったが、やはり今の傷ついた康生を見て冷静になれるはずがなかった。
しかし辺りの暴風が功を成して、まともに前に進むことが出来なかった。
今は皆、四つん這いになりながら必死に地面にしがみついている。
そうしないと本当に飛ばされてしまいそうだった。
「どうするよっ、俺だけならなんとかあいつに接近することが出来るぞ」
ひとまずエルのことは部隊の人に任せて、ザグは奈々枝の元へと移動する。
「私達じゃここまで来るのが限界よ。だからもしもの時は頼むね」
「あぁ、任せろ」
異世界人であるザグが唯一の戦力として数えられた。
後は奈々枝がうまく作戦をたてて康生を救出しないといけないのだが、現状どうすればいいか手詰まり状況だった。
ここまで来てはっきりと分かった。
あの戦いを止められるのは相当な力が必要だ。
恐らくザグ一人では到底対処できないほどの。
痛覚もなく、実体もないあの物体だからこそ今までの間康生の攻撃を耐えてきているだけだ。
もしあそこに生身の人間、たとえ異世界人だとしても数分もまたずにやられてしまう。
今の康生は暴走状態。
敵も仲間も関係なしにただ攻撃を繰り返す。
当然ザグ達であってもそれは例外ではない。
(どうしたら……。英雄様も状態は思った以上よりかはまだ大丈夫。でも、時間をかければ悪化するのは事実……。やっぱり一番の方法は英雄様が作った魔力を酷使出来なくなる薬を打ち込むしか……)
奈々枝は懐に入れていた道具を取り出す。
それは先日の戦いで、康生が隊長達に使ったものだ。
これを使えば魔力を一定時間魔力が使えなくなるというものだ。
当然、魔力暴走を止める手段としては最も有効な手だと思っている。
(でも……残りはあと一回分。これが失敗したら後がない。だから確実に決められる方法を考えないといけないんだけど……)
今まで間近で康生の力を見て知ってきた分、康生という存在が厄介に思えて仕方がなかった。
莫大な力があるからこそ、容易に手出しが出来ない。
それこそが敵の戦略の一つだということで、奈々枝は悔しさに身を震わせる。
「一体どうすれば……」
ここにいるのだって危険なのだ。
とにかく早く、康生を救出するために奈々枝は焦燥感にかられる。
(何か……何かいい方法がっ……!)
『困っているようだな』
そんな時、奈々枝の無線から声が聞こえてくるのだった。
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