第516話 優雅
「くっ、一体どんだけの力使ってるんだよっ……!」
「こ、これが英雄様の本気ですかっ……」
康生の元へと移動し始めた一行だったが、康生の元へ近づくにつれて暴風や地響きが激しくなり踏ん張らなければ立つとも難しい状況だった。
「康生っ、待っててっ、すぐにいく、からっ」
中でもエルにとっては大分厳しい環境だった。
ザグや奈々枝、隊員達は多少体ができあがっているのでなんとか進むことが出来る。しかしエルはそういうわけにはいかない。
「あっ、ごめんなさい」
必死に進もうとするエルが足を滑らしてしまい、そのまま背後へ吹き飛ばされそうになる。
だが周囲を隊員達が守ってくれるおかげでなんとか耐えることが出来た。
自分が足手まといになっていることを自覚しながら、それでもエルは必死に康生の元へと行こうとする。
「これでもまだ距離は大分離れているんだろ?」
「うん。まだ1kmは離れてるはず」
「そんな先での戦いの影響がこれかよっ」
改めて康生の力を実感したザグは軽く舌打ちする。
康生に負けて以来、康生に勝つことだけを考えてたザグだったが、あまりの力に一瞬だけその気持ちが薄くなってしまう。
「まぁ、今は自分の体のことなんて考えずにひたすらに戦っていると思いますからね。そう考えると痛みを感じずひたすら力だけが湧いてくる魔力暴走はとんでもないものですね……」
康生は生身の人間だ。
これほどまでの力をその体で使い続ければすぐにでも壊れてしまう。
しかし現状これほどまでに戦いが続いているということは、無意識下で自身の体を守る魔法を展開しているのだろう。
まなじ攻撃することしか考えてないことが考えられる以上、奈々枝はさらに厳しい状況を想定しながら作戦を組み立てる。
だが足を進めるにつれて康生の脅威をしみじみと実感してしまい、より頭が働かない状況だった。
(なんとかしないと……なんとか……)
奈々枝は絶望的な状況の中、一縷の希望をたぐり寄せるために思考を張り巡らせるのだった。
「――ほぉ、うまくあのガキが暴走したか」
わずかに地響きがする中、周囲を兵士に守らせながら国王は静かにカップを口にする。
「これで奴らの主力はつぶれた。もう我々の敵はいないな」
思い通り作戦が進んだことを喜んでいるようだった。
「しかし滑稽だな。自らの親と子でつぶし合うことになるとはな」
国王は思わず声をあげて笑う。
結局、反逆されたとしても利用してやったのだ。
想像以上の結果に国王はただただ勝利を確信して優雅にくつろぐのだった。
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