第515話 地響き

(どうしたら、どうしたっ。魔力暴走を止める手段っ。それさえ分かれば。……でも分かったところで誰が今の英雄様を相手にできる?お兄ちゃんでもきっとすぐにやられてしまう。うっ、何かいい方法はっ……!)

 奈々枝は必死になって思考を巡らせるが、現状を打破する手段は思いつかないままだ。

 今、こうしている間にも康生が傷ついているのは誰しも分かっていることだが、何も出来ることがなかった。

(何か、何かっ、方法はっ……!)

 奈々枝はせっぱ詰まった様子で今までの情報を全て思い出す。

 いつも冷静な奈々枝からは考えられないほど、焦ったようだった。

 しかも長引けば長引くほど危険なのだ。

 当然康生の体もそうだが、魔力暴走は空気中の魔力を吸収し続ける。

 異世界から近いため比較的この地は魔力は多いが、それがなくなってしまえば恐らくより魔力がある場所へと移動しようとする。

 つまりあの災害をばらまきながら異世界へと行こうとする。

 それだけは絶対に避けなければいけないことだ。

 異世界人に戦う意志を見せているにも関わらず、あれほどの被害を異世界に及ぼすわけにはいけない。

(とにかくここでじっとしてても駄目……。少しでも状況を変えるために動かないと……)

 これ以上考えても無駄に時間を浪費してしまうだけ。

 ならば少しでも状況が変わることを夢見て動かないといけない。

「……お兄ちゃん。今から一緒に英雄様の偵察についてきて」

 奈々枝はすぐにザグを呼ぶ。

「なんかいい案でも思いついたのかっ?」

「……ううん。何も思いついてない。だからこそ何かするために動きましょう」

「分かった。すぐに行く」

 解決案が思いついたのかと一瞬だけ期待していたザグだったが、すぐに奈々枝の意見に賛同し偵察しにいこうとする。

「待って!私も行くっ」

 ザグ達の会話を聞いていたエルはすぐに同行しようとする。

 最初よりかは落ち着いてきたエルだったけど、康生の姿を見るとまた取り乱しかねない。

 だから奈々枝は少しだけ躊躇ったが、恐らく何を言ってもついてこようとするだろうと考えた。

「分かった。でもくれぐれも無謀なことはしないでね」

「分かってる。でも康生が助かる機会があればすぐにでも実行するからね」

「うん、勿論」

 それから奈々枝はすぐに部下達数名をつれて康生の元へと移動した。

 残った人達には何かあればすぐに避難と連絡をすることを指示して、地響きが激しい方向へと向かって足を進めた。

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