第514話 岩

「殺すっ、殺すっ、殺すっ!」

 空気が揺れ、大地が揺れる。

 絶え間なく振動が伝わり続け、すでにあちこちの地面がひび割れ始めていた。

 まるで災害。およそ人類が対処することが出来ないほどのものだった。

「殺すっ、殺すっ!殺すっ!!」

 だがその災害の爆心地。そこでは一人の少年が何度も何度も「殺す」と言いながら暴れていた。

 まさに一見すればただの自然災害に見えるそれは、一人の少年によって引き起こされたものだった。

「はっはっはっ!いいぞっ!だがもっとだ!もっともっと力を解放しろっ!」

 そして同じく、その中心で周囲にそぐわずに一人笑い続ける男が一人。

 大地を割るほどの災害を、男は全く気にせずに笑っていた。

 一人、黄色く光る物体に身を包めながら。

 その物体はこの状況中、吹き荒れる暴風にあらがおうとはせずに、ただ身を任せているようだった。

 しかしその物体に向かって少年はひたすらに攻撃を続けている。

 大地を割るほどの攻撃をくらいながらも物体は変化することはなくただ漂う。

「殺すっ!殺すっ!殺すっ!!」

 一撃、一撃が並の物ならば破壊されてしまうそれを、何度も何度もくらいながら物体は全くダメージを食らっていなかった。

 さらには物体の質量を大きくしていっていた。

「殺すっ!」

 だが少年は物体が大きくなっていくことなど気にもとめない様子で、ただひたすらに攻撃を繰り出し続ける。

 その攻撃で自身の身を傷つけることになっても。

「殺すっ!!」

 肩から血を吹き出しながらも少年はひたすらに攻撃を繰り返す。




「現状はかなりやべぇ状況だぜ」

 地面が断続的に揺れ続ける中、一カ所に集まった奈々枝達は今後について話し合ってた。

「とにかくすぐにでも康生を助けないとっ!あんな姿もう見てられないっ!」

 遠くからカメラで現場の映像を流している中、エルがとにかく康生を救出しようとする。

 最初は大分取り乱しているようだったが、奈々枝の説得によっていち早く康生を救出する作戦を考えることになった。

 しかし現状、魔力暴走を助ける明確な手段が分からない。

 しかも康生の場合、あれだけの力を酷使しているので容易に近づくことすら出来ない。

 災害レベルの存在相手に奈々枝達は何もすることが出来ずにいた。

「くそっ!これこそが敵の作戦って訳なのかよっ!まんまと利用されるなんてっ!」

 誰もが黙る中、ザグは苛立ちを隠さずにただただ近くの岩を殴るのだった。

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