第513話 叫び声

「大変だっ!!」

 爆発音が鳴り響く中、ザグが大慌てでエル達の元へとやってくる。

「一体何があったのっ?」

 未だに地響きが収まらない中、奈々枝は現状把握をしようと必死になっている。

「康生が魔力暴走しやがったっ!」

「えっ!?」

 ザグの一言にエルは驚いたように声をあげる。

 すぐに康生の安否を確認すべくエルが足を動かそうとする。

「待て今近づくと殺されるぞっ!」

 しかしザグがすぐに奈々枝の腕をつかむ。

「で、でもっ……!」

 魔力暴走と聞いたからには放っておくことなんて出来ない。

 そのまま放っておいてしまえばいずれ自らの身を滅ぼしてしまう。

 異世界人であるエルだからこそ、それは十分分かっていることだった。

「とにかく状況を教えて下さい!味方と敵軍の情報、それと英雄様の現状をっ」

 必死にエルが康生の元に向かおうとしてるのをザグが止めているのを見ながらも、奈々枝はとにかく情報を知ろうとする。

「味方はとにかく避難させたっ、お前達の部隊がうまく誘導しているはずだ。敵は元々避難していたから恐らく大丈夫だろうよ」

 ひとまず敵、味方に被害がでていないことを聞いて安心する奈々枝。

 だが肝心の康生の安否が分かっていないので、安易に安心することも出来ない。

「康生の奴は……。今はあの物体と戦ってる。いや、戦わさせられている。康生が暴走するのも奴らの作戦だったって訳だぁ」

「作戦……?あっ、そういう……」

 ザグの報告を聞いて奈々枝はすぐに敵の考えに気づく。

 雷の物体は元々魔力を吸収する力があった。

 魔力をひたすら放出させる魔力暴走を相手にすれば、それは完全に恰好の的だ。

 敵の目的は兵器じゃなかった。

 あれだけ康生の感情を苛立たせたのは敵の作戦のうちだったんだ。

 魔力暴走を起こさせ、雷の物体に魔力を際限なく吸収させる。

 それこそが敵の真の目的だったのだ。

「……やられた。敵の兵器はあの物体だったんた。兵器はただの餌にすぎなかった……」

 今のところあの物体を消滅させる方法が分からない現状、こちらからはまだ何も出来ない。

 しかし康生のことを考えるならば悠長に考えている時間はない。

「魔力暴走を止める手段はありますか?」

「普通だったらそんな手段はねぇ。だけど康生はあの時、魔力暴走を止めたことがある……。やり方は詳しく分からねぇが」

「そうですか……」

 やはり現状打つ手はなし。

 このまま無策のまま康生を助けにいってもすぐに殺されてしまうだけだ。

 魔力暴走は理性がなくなり、手当たり次第破壊を繰り返す存在になる。

 予想外の事態すぎて奈々枝は考えがまとらないまま、ひたすら思考を繰り返す。

「康生っ、康生っ……!」

 そうして無言の時間が流れる中、エルの叫び声が爆発音と共に響きわたるのだった。

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