第463話 作業

「くそっ!いくら罠を仕掛けてもすぐに突破しやがるっ!」

 敵兵に見つからないように隠れながら、ザグは必死に走って次のポイントまで移動する。

「仕方ないよ。多分、敵は英雄様の味方が何かしら動いているのが目的って見破っているっぽいみたいだし」

 その横では奈々枝が異世界人達に次の罠の指示をする。

「くそっ!これじゃあ先に異世界についちまうぞ!こうなれば俺が……」

「だめ!」

「……分かってるよ」

 敵を足止めするために、自棄になって飛び出そうとしたザグを奈々枝はすぐに止める。

「大丈夫。きっと英雄様達はすぐに来るから。さっき英雄様のとんでも機械でこっちに超特急で向かってるって連絡があったの言ったでしょ?」

「そ、それはそうだが……」

 奈々枝達は、上代琉生から現状を聞かされたようだ。

 だからこそ、今は焦らずに少しでも敵の動きを止めることに集中して時間を稼がなければならない。

 普段は陽気な態度を見せる奈々枝だが、こういう場では上代琉生のように冷静に、そして正しい答えを導きだす。

「だからお兄ちゃんも早く頑張って。次そこだよっ」

「あぁ、ここだな」

 そしてザグはすっかり奈々枝に逆らえなくなったようで、今もこうしてせっせと足止めするための罠を仕掛けている。

「それにしても康生達がこっちに到着したところで、この数相手にどうにかなるのか?」

 だが、ザグはそこで一瞬手を止めて疑問を口にする。

「う〜ん、分かんないや」

「はっ?」

 しかし奈々枝はザグの問いにただ分からないとだけ答える。

 そしてザグはあれだけ康生達が来るのを待ちわびている様子を見せていたので、てっきり何か一発逆転の秘策でもあるのかと思っていたようだ。

 だが奈々枝はそんなことを答えるわけでもなく、ただ分からないと答えた。

「……大丈夫なのか?」

 その様子を見て、ザグは少なからず不安に駆られる。

「大丈夫だよ」

 しかし奈々枝はここで珍しく根拠のない言葉を返す。

「だって隊長……、私のお兄ちゃんがいつか言ってたもん。英雄様は俺達の希望だって。あいつが折れない限り、俺達は負けることはないって」

 奈々枝は上代琉生の言葉を思い出す。

 だけどザグにはよく意味が分かってないようで、奈々枝の答えにポカンと口をあけていた。

「さっ、だから私達は英雄様達がくるまでしっかり時間を稼いでおかないとっ。いくら間に合うかもしれないって言っても、あまり異世界に近づき過ぎると向こうに気づかれちゃうかもしれないからねっ」

「お、おう……」

 そう言って奈々枝は早々に話を切り上げてザグ達と共に作業を進めるのだった。

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