第396話 治す

「――本当にそのままでいいのか?」

 全身怪我をしているザグに対して、康生は心配そうに声をかける。

「あぁ、別にこのくらい大したことはねぇよっ」

「ふっ、よく言うよ」

 今なお若干体が動かないのに、ザグは平気なふりをして立ち上がっている。

 そんな二人を見ながら奈々枝は心配そうにザグに近づく。

「くれぐれも安静にしてくださいねっ!じゃないとすぐに傷がひらきますよっ!」

「あぁ、分かってるよっ」

 奈々枝からの再三の忠告にザグはそろそろ煩わしく思いながらも、決して振り払ったりはしなかった。

「あっ、あとこれあげますねっ」

 そう言って奈々枝はザグにバッグを手渡す。

「これはぁ?」

 小さめなバッグだが、それでもずっすりと重量を感じられるバッグをザグは不思議そうに見つめる。

「困った時はこれを使ってください」

「別にこんなものいらねぇよっ」

 これ以上奈々枝によくしてもらうのは嫌なのか、ザグはすぐにバッグを返そうとする。

 だが奈々枝は決してそれを受け取ろうとしなかった。

「それを貸してあげます。だからちゃんと次会った時には返してくださいね」

「むぅ……」

 そうして半ば無理矢理バッグを受け渡されたザグは若干困惑しながらも、それでも奈々枝の好意を素直に受け取った。

「それじゃあそろそろ行くか」

 これ以上長いするとまた何をされるか分からないと思ったザグは早速出発しようとする。


 康生とザグの決着がついた後、ザグは康生の言うように平和な未来について共感を覚えた。

 しかしだからといってすぐに康生達の仲間になれる訳もなく、ザグにはザグでやらなければいけないことがあるのだ。

 自身を主人である王様に曲がりなりにもけじめを通さないとザグの気が収まらないのだ。

 だからこそザグはすぐに異世界へと戻ることになったというわけだ。

 当然康生も奈々枝も怪我の心配をして止めようとしたが、先ほどのようにザグは止められなかった。

 そうしてザグは奈々枝からの荷物を持ち、ゆっくりとした足取りで異世界へと向かった。




「本当に大丈夫だろうか……?」

 ザグの後ろ姿を眺めながら康生は少し心配になる。

 何より先ほど全力で戦ったのだ。あれほどの攻撃をしたからこそ、康生は心配になっているのだ。

「きっと大丈夫ですよ。それにすでに先行している異世界人の皆様に一応連絡をしましたし」

「そっか。なら大丈夫か」

 相変わらず行動が早い奈々枝に対して、上代琉生の面影を見た康生はわずかに笑みを浮かべる。

「さて私達もすぐに帰りますよ英雄様」

 ザグを見送った後、奈々枝はすぐに地下都市へと戻ろうとする。

 だが康生は踏みとどまるばかりで、一向に進もうとしていなかった。

「英雄様?」

 奈々枝は疑問に思い振り返ると、康生は苦笑いを浮かべていた。

「なんとかエルに見つからずにこの傷を治す方法とかってあるかな?」

 どうやらエルのことを恐れているだけだったようだ。

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