第395話 笑み

「お兄ちゃんっ!」

 ザグが倒れた瞬間、奈々枝がザグの元へと駆けつける。

「う、るせぇ……、近づいて、来るんじゃねぇよ……っ」

 どうやらザグはまだ意識があるようで、近づいてくる奈々枝をはらおうとする。

 だが動く力はもうないのか、口だけで体は全く動いていなかった。

「近づくよっ!だってお兄ちゃんこんなにもけがしてるじゃないっ!」

 奈々枝はすかさず、バッグの中から道具を出して応急を手当をし始める。

「お前は……俺を裏切ったんじゃないのかよっ……」

 何も出来ずにそれを見ていたザグは、震える声で尋ねる。

「裏切ってないよ。私はお兄ちゃんのためを思ってここに連れてきたのっ。あのままあそこにいたらお兄ちゃん絶対おかしくなっちゃうって思ったから……」

 手当をしながら奈々枝はゆっくりと答える。

 ザグはその言葉をどう受け取ったのか、とにかくもう何も言わずにただじっとしているだけだった。

「え〜と…、俺も一応けがしてるんだけど……」

 そんな中、恐る恐るいった様子で康生はザグと奈々枝の方に行く。

「今の重傷はお兄ちゃんなので。それに英雄様はそのくらいの怪我なんて平気でしょ?」

「別に平気って訳じゃないんだけどね……?」

 えらく冷たくあしらわれた康生は、苦笑いを浮かべて、手当をしてもらうのを諦める。

「ふふっ。はっはっはっ!」

 すると、どうしてか突然ザグが笑い声をあげた。

「お前達仲間じゃねぇのかよっ!なんで敵の俺が手当してもらってるんだよっ!」

 どうやら康生よりも自分を先に手当してもらったことが大層おかしかったらしく、寝ころんでままで腹をかかけて笑うのだった。

「だから言ってるだろ?俺はお前を敵だなんて思ったことはないって」

 そんなザグに康生は優しく語りかける。

 ザグもそこでようやく話を聞く気になったのか、すぐに否定することはなく康生の言葉に耳を傾ける。

「俺達はただ平和な世界を作りたいだけだ。人も異世界人も関係ない。ただ皆が平和で仲良く暮らせる世界をだ」

 康生はザグにゆっくりと話す。

 ザグはそれに対して何か言うこともなく、ただ無言でそれを聞く。

「そのために今、色んな人達に協力してもらってる。でもあまりにも敵が多い。だからこそ俺達は少しでも仲間が欲しいんだ」

「俺も仲間になれと?」

 ザグは康生の言いたいことを察したかのように尋ねる。

 その目をしっかりと開き、康生を見ていた。

「あぁ。俺はお前と敵対はしたくない。ただ仲間としてお前と共にしたい」

 康生もザグの真っ直ぐな視線をしっかりと見つめる。

「そういえばお前は言ってたな……」

「え?」

 ふいに話しかけられた奈々枝は突然のことに驚きながら首を傾げる。

「俺たちはもう友達なんだって」

「はいっ、当たり前ですよっ」

 そんなザグの問いかけに奈々枝は満面の笑みで答えるのだった。

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