第387話 背ける

「やるべき事か……」

 上代琉生が残していった言葉を心に留めながら康生は呟く。

「康生はまずは安静にしていることだからね。くれぐれも無理はしたら駄目だからね?」

 だがそんな康生を見て、エルはすぐに忠告をする。

 どうやら以前も、魔力がなくなって倒れてしまった時にも安静にするように言っておいたのに外に出てしまったことを少しだけひきずっているようだった。

「そうだぞ康生。お前はまずは休め。仕事はそれからでいい」

 そして時雨さんも同じく心配するように康生を見つめる。

「どのみち今のお前は使えない。だから休んでいろ」

 最後にリナさんがそういいながら病室を出て行く。

 どうやらリナさんもすぐに仕事にとりかかるつもりのようだった。

「使えない……」

 だが思ったよりもリナさんの言葉が心に突き刺さったのか、康生は深刻な表情を浮かべる。

「気にしないでいいよ康生。あれでリナはちゃんと康生のこと心配して言ってるんだから」

「あぁ、そうだな」

 だがエルと時雨さんはそれぞれ、リナさんの言葉の真意を読みとったようで、康生に気にしないように言う。

「それじゃあ私もそろそろ仕事に戻るが……エルはどうする?」

 時雨さんもこの地下都市の都長という立場にいるのだ。

 だからこそ本来ならば職務中の時間にこうして時間を作ってくれたことに康生は感謝を覚える。

 そして時雨さんに言われたエルは少しだけ迷うように視線をさまよわせる。

「別にいいんだぞ?もう少しぐらい康生の様子を見る、もとい監視をするのは」

「監視って……」

 あまりの言われように康生は思わず苦笑いを浮かべる。

 だがエルは時雨さんの言葉を聞いてわずかながら表情を明るくさせる。

「分かった。じゃあ悪いけど私はもう少し康生の監視をするわ。それに何かあったときは私が近くにいた方がいいからね」

「なるほど、分かったよ」

 エルの返答を聞くと時雨さんはそそくさと部屋を出て行った。


「…………」


 皆が部屋からいなくなったからか、急に部屋の中はシーンとした空気が流れる。

 エルと康生はどこか少しだけ緊張したような表情になっているのが原因だろう。

「そ、その、エルに治してもらったみたいで、本当にありがとう」

 そんな中、康生はわずかに表情を赤らめて恥ずかしがるようにエルに感謝の気持ちを伝える。

「う、ううんっ!別に気にしなくていいよ!これが私の仕事だし、それに康生のためだったら私は全然気にしないよっ」

「でもありがとう」

「うぅ……っ」

 恥ずかしがりながらも康生に真っ直ぐ見つめられてエルは思わず頬を赤く染めながらそっと顔を背けるのだった。

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