第384話 影

「皆で……?楽しく……?」

 少女の言葉の意味を理解できない様子でザグはただただ困惑する。

「そう。お兄さんだって見たでしょ?さっきの大通りで人と異世界人が一緒に歩いていたのを」

「人間と……異世界人が……?」

 少女に言われザグは先ほどの光景を思い出す。

 だが、人間に見られたという危機感からじっくりと見ることが出来ておらず、記憶が曖昧な様子だった。

「ほら、これ見たから分かるでしょ?」

 そんなザグの思いを察してか、少女はポケットからスマホを取り出してザグに見せる。

「これは……?」

 ザグは始めて見るスマホに若干驚きながらも恐る恐るのぞき込む。

「これは写真って言って、その時の記録を絵にして保存できるの」

「写真……」

 ザグは少女に促されるようにスマホを見る。

 するとそこには人間達と異世界人達が共に笑いながら写っている写真があった。

 それを見てザグは信じられないものでも見るかのような表情に変わる。

「ほら、だから異世界人だからって何も怯えなくていいんだよ?私達は同じ仲間なんだから」

 少女はそんなザグに優しく微笑む。

 ザグはそれに対してどう反応していいか分からずただただ少女の顔と写真との間で視線を泳がせる。

「…………」

 きっと今までの見てきたものに対して、ひどく困惑してまだ整理がついていないのだろう。

 ザグは何かを言うわけでもなくただじっと立っているだけだった。

「あっ!」

 そんな中、少女が突然声をあげてスマホを確認する。

「私そろそろ戻らないといけないんだった!それじゃあお兄さんまた今度ねっ!」

「あっ、お、おうっ……」

 元気よく手を振って走り去り少女を見ながらザグは元気のない声を出すのだった。




「あまり勝手な行動はするなよ奈々枝」

「あっ!お兄ちゃんっ!」

 路地裏の中、先ほどまでザグと会っていた少女の元に一つの人影が近づく。

「少しくらい大丈夫よっ。それにあの人とってもいい人だったしっ!」

 少女――改め上村奈々枝は、突然現れた上代琉生に大して驚くことなく笑顔で応じる。

「お前は少し副隊長としての自覚を持て、あんまり勝手に動きすぎるとついてくる者がいなくなるぞ?」

「別に私そんなの気にしないしっ」

「はぁ……。お前はいつもそうだな」

 上代琉生は自らの妹に対して深いため息をつく。

 どうやらこういうことは日常茶飯事のようだった。

「それよりもそっちの話し合いはもう終わったの?」

「あぁ、終わったよ。俺達はすぐに仕事だ。いくぞ奈々枝」

「了解っ!」

 そう言って二人の陰は路地裏の中から瞬く間に消えていくのだった。

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