第382話 雑多
「じゃあお兄さんはここで目をつぶって待っててね!」
「お、おうっ!」
そう言ってザグは少女に言われた通りに目を閉じる。
「わ〜!」
ザグが目を閉じると、少女は嬉しそうに叫びながら走り去っていく。
そんな少女の足音を聞きながらザグは頭の中で1から数字を数えている。
(どうして俺がこんなことをしないといけないんだ……)
数を数えながらも、頭の中で大きなため息をするザグ。
ザグは現在少女と遊んでおり、今はかくれんぼをしている最中だった。
(まぁ、しばらく遊んだら気が済むだろっ)
すでに諦めているザグはそうして数を数えるのだった。
「よしっ、じゃあ探しにいくぞぉっ!」
目を開けたザグをすぐに周囲を見渡す。
当然かくれんぼなので、目につくところに少女の姿はない。
「さぁ、どこに隠れやがったっ!」
そしてどういうわけか、ザグも楽しそうに少女の姿を探し始めるのだった。
どうやら完全に諦めて少女と遊ぶことにしたようだった。
「こっちだよっ〜!」
「あっ!てめぇっ!」
するとザグの背後から少女の声が聞こえる。
見ると少女はザグの正面にある通路に一人立っているのだった。
「捕まえられるものならこっちまでおいで〜!」
少女は最後にそう言葉を残すと、笑いながら道の奥まで走っていく。
「やろぉっ!お前なんか捕まえるのぐらい朝飯前だよぉっ!」
するとザグは少女に向かって一直線に走っていく。
「きゃはははっ!お兄さん速いっ!」
「当たりめぇだっ」
どうやらザグは本気で少女を追いかけているようだった。
しかし少女も中々に足が速く、そしていくつもの曲がり角を曲がりながら着実にザグから逃げていく。
「ほらほら〜!こっちだよ〜!」
「てめぇっ!」
少女の挑発にザグはどんどん本気になっていく。
終いには魔法の力を使ってスピードをあげることすらやっていた。
「あとっ、少しっ!」
流石に全力で魔法を使ってはいないものの、やはり少女に追いつけないザグではない。
もう少しで捕まえられそうな距離まできたところでザグの視界に眩しい光がさす。
「んぁっ……?」
急に視界が明るくなりわずかに目を細めるザグ。
そして次の瞬間、ザグはその場に立ち止まる。
「どうしたのお兄ちゃん」
少女はザグが止まったことに気づいたのか、すぐに振り返る。
だがそれでもザグは止まったままだった。
「…………」
ザグは目の前の光景を見ながらただ黙る。
「ほらお兄ちゃん?早く遊ぶよ」
少女はそんなザグを見て楽しそうに笑いながら手を握る。
「悪りぃ、俺はもう遊べねぇ」
ザグは少女の手を強引に振り払って路地裏の中へと消えていく。
街を歩く人々はそんなザグを気にも止めずに、ただ雑多な声と足音が響かせるのだった。
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