第381話 心
「しっかし、地下の中によくこれだけのものを作ったもんだ」
地下都市を探索しながらザグは思わず声をもらす。
異世界とはまた違い、シンプルかつ機能にこだわった人間の建造物に興味津々のようだった。
「だがこんだけ入り組んでると、迷子にならねぇのかよ」
そう言葉をもらすザグは、現在道に迷っている最中だった。
だがザグは元々道を知っているわけではないので、迷子という表現が正しいかは分からないが、現状どこか行くのか分からずにひたすら進んでいるようだった。
「エクスの奴の姿も見失ったし、一体どこに行きやがったんだぁ?」
キョロキョロしながら辺りを見渡すが、当然康生の姿はそこにはない。
というか、人目を避けて路地裏を進んでるので康生の姿どころか誰もその場にはいなかった。
少なくともザグはそう思っているようだが。
「ねぇ?何してるのっ?」
「うわっ!」
ザグは突然聞こえた声に驚いたように声をあげる。
「ふふふっ、お兄さん面白いね」
そんなザグの姿を見て小さく笑うのは一人の少女だった。
「お、お前、いつからそこに……」
ザグはいつの間にか背後をとられていたことに若干の警戒心を覚えながら少女を睨む。
「ん?そんな怖い顔してどうしたの?」
だが少女は脳天気な顔で首を傾げるだけだった。
(……いや、たんに建物に気を取られて気づかなかっただけか)
無垢な少女を前に、ザグはそんな結論に至る。
しかしザグは現状、この地下都市に秘密裏に侵入しているのだ。
当然姿を人に見られるのは不味い。
だからこそザグはどうしようかとあれこれ考えると、突然少女がザグの手を握る。
「ねぇ?お兄さん暇なら私と遊んでよっ」
「あぁ?」
「ほらっ!早く早くっ!」
どうやら少女はザグのことが気に入ったのか、にこにこと笑いながらザグの手を引っ張る。
「お、おいっ、俺は……」
「ほらほらっ、早く行こっ!」
ザグが戸惑っているのを知らず、少女はただ純粋にザグと遊ぼうと引っ張っていく。
そしてザグは、人間と始めて言葉を交わしていることの衝撃で――本当は康生と話したのだがあれはザグの中ではノーカンとなっている――戸惑うようにたじろぐ。
「お前、俺は異世界人なんだぞ?」
だからこそザグは勇気を持って言う。
少しでも少女がどこかへ行ってくれることを願いながら。
「そんな知ってるよ。見たら分かるもんっ」
「あっ?」
しかし少女の反応はザグが予想していたものより大きくはずれたものとなった。
異世界人と名乗ったにも関わらず、人から少なからず好感をもたれているという事実が、ザグの心をわずかにざわつかせるのだった。
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