第378話 携帯電話

「とりあえず無事でよかったですよ英雄様」

 康生の病室には、エル、時雨さん、リナさん、上代琉生の四人が集まっていた。

 そうして上代琉生は、康生の無事を確認すると、小さく言葉をもらすのだった。

「どうやら沢山迷惑かけたみたいで、本当にありがとう」

 康生は上代琉生の姿を確認すると真っ先に頭を下げる。

 大分調子も戻ってきたので、現在康生は上半身だけ起こして皆と向き合っている。

「いや、何。別に気にするな」

 上代琉生は康生に感謝されるも、とくになんともない様子で受け流す。

「とにかく、皆に集まってもらって悪いけど、今はとにかく状況が知りたいんです。だからお願いします。俺が倒れている間に一体何があったんですか?」

「そうね。ちゃんとしっかり説明しないとね」

 そう言ってエルは康生に現在の状況を説明しはじめる。




「そんなことが……」

 全ての状況を聞いた康生は、一度に全て理解することが出来なかったのか、わずかに混乱しながらもゆっくりと頭の中で整理する。

「リリス達は、本当に大丈夫なのか?」

 リリスが上王を辞任したことにまず驚いたのか、康生はリリスの安否を確認する。

「あぁ、今のところは何も問題はない。今いる場所は元々身を隠すために見つけておいたらしいからな」

「それならよかった……」

 上代琉生の言葉を聞き康生は少し安心する。

 だが、自分のせいで沢山の苦労をかけたことに気を病みわずかながらに表情を曇らせる。

「リリス様は元々、父上と同じ思想を持っていた。だから気にするな。こうなることはリリス様のためでもあるのだ」

 そんな康生の思いを察してか、リナさんが励ますように言葉をかける。

「そうよっ。あの子だって私と同じように思ってたのよ。それなのに自分の気持ちを隠して今までやってきたから別に気にすることなんてないのよ」

 とエルも同じように康生を励ます。

 だがやはりそれでも康生の気が晴れることはなかった。

「もし心配なら、今から話してみるか?」

「えっ?」

 上代琉生の言葉に康生は咄嗟に反応する。

「話すって一体……」

「これだよこれ」

 そう言って取り出したのは一つの携帯電話だった。

 それは康生があらかじめ、異世界との通信用に作っていたものだった。

 しかし異世界に電波を飛ばすためにエネルギーを莫大消費してしまう。

 だからこそ使えても一度きりのものだ。

 エル達の話で、一度それを使ったと聞いた康生はさらなる疑問が湧いてくる。

「実は向こうの技術者と協力して作ってもらったんだよ。こっちと向こうを繋げてくる携帯を」

 そう言って上代琉生は康生に携帯電話を手渡すのだった。

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