第376話 指示

「皆の者!ここまで共に来てくれてありがとう!」

 草木が生い茂る中、一つだけ開けた広場があった。

 そこでは多種多様な種族の異世界人がおり、皆円になるように立っている。

「我は父の意志を継ぎ!我々と人間が共存できるような世界を作ろうと思う!」

 そんな異世界人達の円の中心にたった一人、一人一人を見渡すようにして演説している少女が一人。

「じゃが、我にはまだ力がない!そのために皆の力を借りたいと思っている!」

 そして少女は最後に一人一人の顔を見ると、その頭を下げた。

「じゃからどうかお願いじゃ!我に力を貸してくれっ!」

 そうして懇願する少女はリリスだった。

 リリスは上王を辞退してからすぐに、新たな場所へと移動を開始していた。

 その移動に着いてきてくれた異世界人達は、皆上代琉生が滞在期間の間に見つけてくれた者達だった。

 数はざっと百人程度だが、それでもリリスはこれだけの皆がついてきてくれたことに感激している。

 そうして異世界人達は拍手でリリスの思いに答え、新たな生活を始めようとする。


(これから大変になるな)

 拍手に包まれながらリリスは考える。

(じゃが、今は康生達の方がより大変じゃ。少しでも我々の未来に近づくためにも我達も頑張らないとな。こういうところは少しはエルを見習った方がいいかもしれんな)

 そんなことを考えながらリリスは遠く空を見上げる。

(康生……。お願いだから無事に目を覚ましてくれ。我はもう一度お主と話したい……)

 そんな思いをリリスは抱きながら、すぐに思考を切り替え、自らのやるべきことを実行するのだった。




「奴らの居場所はまだ分からんのかっ!」

「す、すいませんっ……!」

 とある異世界の国では一つの怒声が響いていた。

「くそっ!ザグも奴も人間界に行ったきり連絡をよこさんっ」

 男は一人、愚痴をこぼしながらも乱暴に椅子に腰掛ける。

「まぁ、この際ザグのことはいい。それよりも今は……」

 男はすぐにぺらっぺらの報告書を乱暴に掴む。

「一夜にして姿を消したリリス達のことだ。未だに所在がつかめないことは不可解だが、それも時期に終わるだろう」

 書類に目を通しながらも男は考える。

(エルの方だけが脱走した時点でリリスは賢いと思っていたが……、まさか奴も上王を自ら辞退するとは……)

 男は頭を抱えるようにして顔をふせる。

「まさか二人共、父親の意志を受け継いでいるとはな……」

 その瞬間、男の表情がわずかにだが優しいものへと変わる。

 だがすぐに男は顔をあげ、いつものきりっとした表情に戻ったかと思えば、すぐに部下に次の指示を出すのだった。

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