第375話 治療

「ここが、人間共の住処かぁ」

 康生の治療が始まろうとしていた頃、地下都市の中にザグが侵入していた。

 初めて来る、人間の住む場所にザグはどうやら興味津々の様子だった。

「しかし、あいつらを見失ってしまったなぁ。まぁ、ここがあいつらの住処に間違いねぇんだ。すぐに移動するなんてことはねぇだろうから、気長にやっていきゃいいか」

 そうしてザグは誰にもバレないように、そっと地下都市の中を探索し始める。


「…………」


 だがそんなザグを影から見守る人影が一つ。

 上代琉生の命令によって、ザグの監視がついたのだ。

 その監視の一人が、ザグの行動を逐一上代琉生に報告している。

「目立った動きはなし、と」

 定期連絡を済ませた監視役、そうしてすぐにザグの後を追うのだった。




「どんな感じだ?」

 地下都市中央に建てられた建物の中の一室。

 そこで康生は大きな台の上に寝かされていた。

 そして康生の両端にはそれぞれ、エルと時雨さんが立っている。

「リリスの言っていた通り、脳にダメージがはいっているみたい」

 リリスは寝ている康生の頭に手をあててる。

 その手がわずかに光っているところを見ると、どうやら魔法の力で康生の体を調べているようだった。

「そうか」

 そして時雨さんはというと、ただただ康生の心配をしているようだった。

「それでどうにか治りそうか?」

「う〜ん……」

 時雨さんに聞かれると、エルは少しだけ表情を悩ませる。

 そんなエルを見て、時雨さんはさらに不安にかられるが、ここはじっと構える。

「まだやってみないと分からない」

「そうか……」

 エルの言葉を聞いて時雨さんはわずかに顔を強ばらせる。

「でも大丈夫。私が絶対に康生を助けるんだから」

 そんな時雨さんを見てか、エルは強気な態度でいうのだった。

 きっと時雨さんを心配させないようにしたのだろう。

 そんな意図を察した時雨さんは少しだけ申し訳なく思う。

 恐らく一番心配しているのはエルだ。だからこそ時雨さんはそんなエルに気を遣われないように自分を奮い立たせる。

「そうだな。康生はこんなところで死ぬような奴ではない。だからこそきっとすぐに治るさ」

「うん、そうだね」

 そうして二人の視線は下へ向けられる。

 静かに眠った康生を眺める二人は、示し合わせたかのように顔をあげた。

「よしっ、だいたいのことは分かったからあとは魔法をかけるだけ!」

「私は何かあった時のためにいつでも待機しておくからな」

 そうして遂に康生の治療が始まろうとしていた。

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