第374話 準備

「よかった!康生!よかった!」

 康生との再開にエルは涙を流して喜んでいた。

 そんなエルを見て、上代琉生は背負っている康生をそっと向ける。

「たった今帰った。どうする?すぐに康生の治療にかかるか?」

「勿論っ!」

 エルは涙を乱暴にぬぐい取って頷く。

「上代琉生。貴様はここまでの旅で疲れただろう。ひとまず康生は私が運ぼう」

 そう言うと、いつの間にか来ていた時雨さんが上代琉生から康生を受け取る。

「ありがとうございます」

「何。こちらこそ、康生を無事ここまで連れてきてくれて感謝している」

 そう言って時雨さんは康生を受け取りすぐに移動を始める。

「いつでも康生が来ていいように、康生を治療する準備はすでに整えてある。だからあとはあまり心配するな」

 時雨さんと入れ替わるようにリナさんが上代琉生の元へ来て言う。

 どうやら皆、上代琉生が帰ってきたという報告を受け、すぐに集まってきたのだろう。

「それよりも、本当に大丈夫ですかね」

 上代琉生は運ばれていく康生を見ながらも、少しだけ心配そうに呟く。

「それは私にも分からないな」

 リナさんもまた、上代琉生と同じように心配そうに康生を見る。

「ただ」

 しかしすぐに視線をずらし、上代琉生へと向ける。

「エルお嬢様は異世界で一番の治癒魔法を使う。さらに康生が来るまでの間、ひたすら人間の医療技術を勉強していた」

「医療技術を?」

 初めて聞いた情報に思わず上代琉生は反応する。

「あぁ。なんでも康生を治すために、治療に関する知識をとにかく勉強したみたいだ。それがどう魔法に影響されるかは分からないが……」

「なるほど」

 上代琉生はエルの気持ちを少し想像しながら、もう一度康生に視線を向ける。

(皆、こんなにも頑張ってんだ。英雄様も、もう少しだけ頑張ってくれよ)

 心の中で小さなエールを送った上代琉生はすぐに足を反対方向に向ける。

「俺は部隊の元へ戻ります。また何かあったら連絡をお願いします」

「あぁ、分かった。私も己の仕事をせねばな」

 お互い康生のことが心配だが、そこはしっかりと思考を分ける。

 今はそれだけ大変な時期なのだ。

 いつ敵が攻めてくるか分からない。

 だからこそ、康生が復活した時にすぐに作戦を決行できるよう、リナさんと上代琉生はその準備に入るのだった。

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