第373話 涙

「――俺だ」

 上代琉生が何もない荒野で一言呟く。

 辺りには何もなく、また誰一人としていない。

 きっとこれを見た人は何をやっているのかと不思議に思うだろう。

 だが上代琉生が呟いた瞬間、突如地面でうねりをあげる。

「待っていました。さぁ、すぐに中へ」

 しばらくすると、地面の中へと続く階段が現れる。

 階段には一人の男が待機しており、格好を見るからにどうやら上代琉生の部下の一人だろう。

 とにかくそうして上代琉生は康生を背負ったまま階段の中へと入ってく。




「なんだぁ、あれは?」

 そしてそれを遠くから目撃していたザグは大きな目をあけながら呟く。

 きっと今まで地下都市を見てこなかったのだろう。

 突然地下から現れたそれに対して、ザグは興味の眼差しで見ていた。

「けっ、やっぱ人間っておもれぇじゃねぇか」

 ザグは上代琉生が階段を降りていくのを見ながら、ゆっくりと近づく。

 そうしてゆっくりと閉まっていく階段を横目に、ぎりぎり通過出来る寸前のタイミングでザグは階段の中へと入っていった。




「よろしかったのですか隊長?」

 階段を降りている最中、部下の男は上代琉生に尋ねる。

「なんのことだ?」

「あの異世界人についてです」

 男は後ろの方を視線でさしながら上代琉生に尋ねる。

 どうやら男はザグが侵入してきたことに気づいたようだ。

「あぁ、別に構わないさ」

 だが、上代琉生は対して何かをするわけでもなく普通に流す。

 男は少しだけ戸惑いながらも、それでも上代琉生の言葉を信じる。

「あぁ、だがあいつを監視するチームを直ちに編成しろ。何かあったらすぐに俺に知らせるようにな」

「はっ、了解しました」

 小声でこっそりと話ながら上代琉生達はどんどん階段を降りていくのだった。


 そうして階段を降り、地下都市に入る門の中をくぐった上代琉生はすぐさま中央の建物へと向かう。

 門をくぐる時に、すでにエル達には話を通してある。

 だからこそ上代琉生はエル達のことを思って、なるべく急ぐように足を動かす。

「なんにせよ、これで目を覚ましてくれないと困るよ、英雄様」

 上代琉生は異世界からここまで、ずっと背負い続けた康生の姿を横目にしながらそっと呟くのだった。



「康生っ!」

 中央の建物に入る直前、上代琉生を見つけたそれは声をあげながら駆け寄ってくる。

「よかった!康生っ!よかった!」

 喜びながらも駆け寄ってくるエルは康生を人目見た瞬間、嬉しそうに涙を浮かべながら駆け寄ってくるのだった。

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