第372話 話し合い
「あー、俺だ」
「どうしたザグ。何か変化でもあったのか?」
異世界を出る直前、ザグは持っていた通信用の魔道具を使い王に連絡をとる。
「動きは別にまだねぇな。まだまだ追跡中だぁ」
「そうか。あの上王が辞任すると宣言してからしばらく経った。きっと奴らが移動している先が潜伏先だろう。必ず、突き止めろよ」
どうやらザグを尾行させていた王は、康生達がリリス達が逃げ込む場所に行こうとしていると思っているようだった。
だからこそザグを尾行につけていたみたいだが、
「あぁ、その件に関してだが、あいつはここから出て人間世界に行くつもりだぞ」
「なんだとっ!?あの上王はこの世界を捨て、人間世界に行くと言うのかっ!?」
康生達が人間世界に行くと伝えられて、王はすぐにリリス達も同じ行動をとろうとしていることを察したが、それは検討違いのことだった。
「いや、どうやらあいつらだけは別行動のようだ」
「何?一体どういうことだ?」
「俺にも詳しい事情はしらねぇよ。だが俺はこのままあいつらを追うぜ」
「追うだと?まさかお前、人間世界に行こうとしているのではないな?」
ザグの言動から何かを察した王はザグを引き留めるように言う。
「お前一人で行っても何もならない!ここはひとまず状況を整理して……」
やはりすぐに引き返すように言ってきた王。
だがザグはそんな王に大して魔道具を顔から遠ざける。
「あぁ、わりぃ、どうやら人間世界に入っちまったせいで、魔力が枯渇してるみてぇだ。何も声が聞こえねぇ」
ザグはそれだけ言って魔道具を懐に入れようとする。
「はっ?何を言っているザグっ!」
しかし王は必死になってザグを止めようとするが、ザグはもう止まらなかった。
結局、ザグは王の言うことを聞かず――正確には命令を聞いて康生達の尾行を再開するのだった。
「くそっ!あいつっ……!」
一方そのころ、ザグと連絡を一方的に遮断されてしまった王は一人部屋の中で呆然としていた。
(まぁ、あいつのことだ。そう簡単に死ぬはずはない。きっとまた修行だのなんだの言ってすぐに帰ってくるはずだ)
しかしザグの破天荒ぶりには慣れているようで王はすぐに思考を切り替える。
(それよりも問題はあの上王、リリスの方だ。てっきり人間であるエクスと行動を共にするのかと思っていたが……)
リリスの上王辞任が発表されてから、王はひたすらにリリスの真意を考えていた。
(だがこの状況でこんなことをしても、どのみち前の王のように処刑されてしまうだけだというのがまだ分からないのか)
王はリリスの国のことを思い出しながらも重いため息を吐き出す。
(父親といい、その娘達といい。本当にやってくれるものだな)
王はそこで考えることを一旦諦め、すぐに人を集め、今後の対応について話し合いを開くのだった。
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