第370話 逆立ち

「ふぅ……」

 康生を背負って歩いていた上代琉生が、足を止めて息を吐く。

 リリス達の国から出て、真っ直ぐ歩くこと数時間。

 上代琉生はただひたすらに地下都市に戻るために歩いていた。

「大丈夫か?」

「あぁ大丈夫だ。少し疲れただけだよ」

 そんな上代琉生を心配するように見ている影が二つ。

「それにしてもわざわざここまでありがとう」

 上代琉生はリリスの国からここまで着いてきてくれた二人に感謝をする。

「これも上王様の命令だ」

「だから気にすることはない」

 二人は息を合わせるように答える。

 現在上代琉生は、自らが考えてルートをたどりながら康生を連れて地下都市に戻ろうとしている。

 そしてリリスの提案で、それに付き添うことになったのが、

「まさか自分の護衛二人を寄越してくれるなんて、ほんと感謝しかないよ」

 そう。上代琉生を見送ることになった異世界人は、リリスが普段連れている護衛の二人だった。

 リリスがあんな状況の中、当然二人はすぐに反対した。

 だが上代琉生がリリスの安全については完璧に保証している旨を話すと、二人は快くこの役割を受け入れてくれた。

 リリスについての感謝も含め、護衛の二人は上代琉生達を見送ることになったのだ。

「だがあまり休んでいる時間はない」

「少し休んだらすぐに出発するぞ」

「分かってるよ」

 少しだけ休憩が出来た上代琉生は、再び康生を背負って立ち上がった。

 そうして地下都市へ向けて再び足を進めるのだった。




「けっ、まさかこんなことになるなんてな」

 そんな上代琉生達を遠くから見ている影が一つ。

 鍛えられたその筋肉が自慢のザグが物陰から、上代琉生達を眺めていた。

「あいつの命令でエクスのことを見張ってろって指令が出てつまらねぇと思っていたが……。中々に面白くなってきたじゃねぇか」

 ザグは上代琉生達が歩き出すのと同時に再び足を進める。

(それにしてもやつら一体どこに向かうつもりだぁ?)

 そんな疑問を抱きながらザグはひっそりと後をつける。

(まぁ、どのみちあいつらをつけるように言われたんだ。とにかく今は黙って従うしかねぇか)

 上代琉生達の行き先について疑念の心が晴れないが、それでも命令だからと言ってザグはひたすらに後を付け続ける。

「よっと」

 しかしザグの行動は少しだけおかしなところがあった。

「まぁ、これもいい修行だから別にいいけどよぉ」

 そんなことを言いながらザグは、逆立ちした状態のまま、上代琉生達を追いかけるのだった。

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