第367話 提案
「上王様。康生脱出計画が完成致しました」
上代琉生が異世界に来てから一週間ほど経った時。リリスの部屋に来ていた上代琉生は書類を渡すのだった。
「もう出来たのか?」
「はい」
リリスもまさかこんな短期間でできあがるとは思っていなかったようで、上代琉生の言葉を聞いて半信半疑でいる様子だった。
「分かった。それでは見せてもらうぞ?」
だが上代琉生がそう言った以上、本当に完成したのだろうという予感を覚えながらも受け取った書類に目を通す。
しばらくリリスの部屋には紙をめくる音だけが小さく響いた。
「……なるほど」
書類に目を通してから数分後。リリスは全て読み終わりため息混じりに言葉をはいた。
「まさか少し次元の話をしただけで、ここまで実用しようとするとわな」
「そういうのは得意なので」
リリスの言葉に上代琉生は淀みなく答える。
そんな上代琉生に対して、関心と底知れない力に少しながらの畏怖を覚えながらもリリスはもう一度書類に目を落とす。
「確かにこの作戦ならば康生と貴様を無事脱出させることが出来るじゃろうな」
多少危険なところはあるだろうが、それでもここまで完璧な脱出計画を見たリリスはそう言葉にもらす。
と同時に僅かながらに懸念すべき点を見つけていたリリスは眉を細める。
「じゃが、この計画書には一つだけ不可解な点がある」
そう言ってリリスは書類をめくり、上代琉生に訂正個所を見せる。
「これを読む限り、この脱出計画には異世界人の手助けが必要じゃ」
「その点ですね」
上代琉生はあらかじめその質問が来ることを予測していたように、表情を崩さずに述べる。
「確かにこの計画は異世界人の力、つまり魔法を使える者がいないと成立しません。ですが、俺には一つだけあてがあります」
「あてじゃと?」
まさか異世界人を味方につけたのかと、そんな到底実現不可能なことを言い出すのかとリリスは身構える。
しかし結果的にリリスは上代琉生の予想を遙か上に行く提案に度肝を抜かれることになる。
「この作戦に同行してくれる異世界人は――上王様。あなたがいいと俺は思っています」
「我……じゃと?」
突然自分が作戦に同行することを指名されて、リリスは疑念や驚きといった感情に支配される。
だが上代琉生はそんなリリスを見てゆっくりと話す。
「ここで暮らしてみて思いましたが、上王様。もしよかったら国を捨てて俺達と一緒に来ませんか?」
「…………何?」
突然の上代琉生の提案にリリスは目を大きく見開き、すぐに言葉を出すことが出来なくなった。
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