第365話 計画

「ここが異世界か……」

 初めて異世界の土地に足を踏み入れた上代琉生は、流石に常識とは違う世界に圧倒される。

 その隣にいるリリスとメルンは、康生が入ってきた時の反応を見ているのでさほど驚く様子はなく、ただ上代琉生が戻るのを待っているようだ。

「本当にこの世界にこんな場所があったんだな……」

 上代琉生は異世界人達の世界を見てそんな感想をもらした。

「そろそろ大丈夫か?」

「はい。大丈夫です」

 リリスがそっと声をかけると、上代琉生はすぐに表情をいつものものに戻した。

「それでとりあえず俺はどこに隠れていればいいでしょうか?」

 そして同時にこれから先のことについてすぐに思考を回転させる。

 それこそが上代琉生の強みであり、最大の武器だ。

「そうじゃな。とりあえずは康生と同じ病室にいてもらう。あそこは今、誰も近づけないようにしているからの」

「分かりました」

 ということでリリス達は早速康生の病室へと向かうことになった。




「本当に起きないんですね……」

「そうじゃな……」

 病室についた上代琉生は、やはり康生の様子を確認する。

 ベッドの上に横たわったまま何も反応を見せない康生を見て、少しながらに悲しい表情を浮かべているようだった。

「とにかくしばらくはここで隠れてもらう。じゃがすぐに別の場所は用意させよう」

「ありがとうございます」

 康生のことが心配なのはリリスも同じだ。

 だからこそ康生をここから連れ出してくれると宣言した上代琉生に対してリリスは自分が出来る範囲のことならば全てやってみせる、そんな気でいるのだった。

 リリスは康生のため、最大限上代琉生を支援するつもりでいるようだ。

「……それで一体どうやって脱出させる気なんでか?」

 すると今まで黙っていたメルンが、恐る恐るといった様子で上代琉生に尋ねる。

 メルンも同じく康生を心配している身だ。だが、それ以上に一番上代琉生をまだ信用しきてっていない。

 だからこその質問なのだろう。

 上代琉生はそんな質問をされてしばらく黙りこむ。

 メルンはそんな上代琉生の様子を見てさらなる疑心暗鬼をたちこめさせるが、それでも上代琉生の回答を待つ。

「――俺はまだこちらの世界のことを何も知らない。だからこそ今すぐに英雄様――康生を脱出させる方法は提示できない。すまない」

 だが上代琉生は素直にメルンに謝った。

「……分かりました」

 メルンは、無計画だとはっきりと言われたことに若干動揺しつつも、上代琉生が何も考えていないことを知れただけで少しは安心したようだった。


 こうして上代琉生が異世界に足を踏み入れ、康生と共に脱出する計画が進行し始めるのだった。

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