第363話 人間
「少し俺に考えがあります」
「なんじゃ?」
エルと言い合っていたリリスだが、上代琉生の言葉を聞き動きを止める。
「俺が異世界に行きます。そうして康生と共に異世界から脱出してみせます」
「なんじゃと?」
上代琉生の言葉を聞いたリリスは驚愕と疑念が混じったような顔になる。
「貴様一人来たところで康生を脱出させることなど……」
リリスは上代琉生の言葉をただの戯れ言だと思っているのだろう。
実質。異世界のことを何も知らない人間が一人増えたことで何も変わらないどころか、足かせが増えてしまうのは明白だった。
それなのに上代琉生は、異世界に同行し康生を連れて帰るといったのだ。
「――何か考えがあるのか?」
そんな上代琉生に、リナさんが呟くように尋ねる。
「少し、ね」
と上代琉生はなにやら含みのある言い方をする。
皆がそれを不思議に思っている中、上代琉生はまっすぐとリリスを見て言う。
「俺は変装や話術や隠密行動など様々なスキルを磨いてきた。これがあれば康生を逃がすにはいくらか使えるはずだ。だから俺はそっちに行って康生と共に異世界を脱出する」
「…………」
まっすぐと見つめられ、リリスは若干言葉につまる。
そんな上代琉生を見ても、やはり連れていける確証はないのだから。
「――こいつは」
だからこそどうするものかとリリスが悩んでいると、突然リナさんが口を開く。
「こいつは信用のおける奴です。だから上王様。どうかこいつを連れて行ってやってくれませんか」
なんとリナさんが直々にリリスに頭を下げたのだった。
「リナさん……」
そんなリナに上代琉生は初めて表情を少し崩した。
そしてリリスもまたそんなリナさんを見て、
「……まさかお前が他人のために頭を下げるとわな。いいじゃろう。貴様を一緒に連れて行こう」
「えっ!?いいですかリリス様っ!?」
リナさんの行動を見て、リリスは上代琉生を連れて行くことを決意した。
だがメルンがそんなリリスの決定に驚きの声をあげる。
「もう後は康生の仲間を信じるしかない。そうじゃろ?」
メルンに向かって、根拠も何もなしに言ったリリスはにっこりと微笑む。
「まぁ、リリス様がいいならいいんですけど……」
そんな笑みを見せられたメルンもまた、渋々といったように了承する。
「というわけだからエル。もう少しだけ待っててくれ」
上代琉生はエルの前まで進んで言う。
「――分かった。絶対に無事に連れて帰ってきてよ?」
「あぁ、約束だ」
そうして上代琉生はこの世界で二度目の異世界に足を踏み入れる人間となったのだった。
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