第362話 ヒートアップ

「そんか。そんなことが起こっていたんじゃな……」

 上代琉生から一通りの事情を聞いたあとで、リリスは言葉をもらす。

「はい。それでこちらとしても康生に帰って来てもらいたいと思っていたんですけど」

 と上代琉生が途中で言いリリスを見る。

 視線を向けられたリリスは若干申し訳なさそうな表情にしながらも、それをしっかりと受け止める。


「…………」


 上代琉生が説明し終わると、自然と誰も口を開くことなくじっと黙る。

 きっと誰もが今後のことについて考えているのだろう。

 リリス達は自らの国のことでエル達は自らの地下都市について。そして当然頭の半分は康生について考えているのだ。


「……あ、あのぉ、ちょっといいですか?」


 そんな中メルンが恐る恐ると言ったように手をあげる。

「どうしたんじゃメルン?」

「い、いや私はそちらの事情をあまり詳しく知らないので大したことは言えませんけど……とにかく一度エル様に康生さんを診てもらった方がいいんじゃないですか?それで康生さんが回復するかもしれませんし……」

 地下都市の事情を全く把握していないメルンだからこそ、康生のことを考えてそんな考えを思いついたのだろう。

「確かにそうよっ!とにかく私が康生を治せば解決するじゃないっ!」

 エルもまたそんなメルンの意見に賛同し早速康生を治療しに行こうとする。

 しかし、

「待つのじゃエルっ!」

 異世界へと続く道へ行こうとするエルをリリスはすぐに止める。

「どうして止めるのよっ!」

 急に止められたエルは怒りながらリリスを見る。

「言い忘れておったが、この空間は一度出るともう二度とは使えないんじゃ!じゃからもしエルがここから出てしまえば、地下都市に戻るには多くの時間と労力を使ってしまう!」

「二度とは使えない……?」

 リリスの言葉にエルは少しだけ驚いたような顔を見せるが、すぐに表情を変える。

「別に康生と一緒に帰ればそれでいいっ!」

「馬鹿をいうなっ!エル!貴様は父がどうなった知ってるであろう!?エルも今や父と同じ立場になっているのじゃっ!そんな貴様が異世界に来て易々帰れると思うなよっ!?」

「それは……」

 リリスからの予想以上の怒鳴り声にエルは少しばかり萎縮してしまう。

 中でも父の話を出されたことが痛かったのだろう。

 父への周りからの扱いはエルは嫌と言うほど近くで見てきたからだ。

 だからこそ躊躇われるが、それでもエルは康生の為に行こうとしている。


「――少し俺に考えがあります」


 そんな中、二人の喧嘩がさらにヒートアップしそうなのを見て、上代琉生が口を挟むのだった。

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