第361話 事情
「リリスっ!康生はどうしたのっ!」
上下左右が全て歪んで見えるようなそんな空間。
そこで真っ先に大声をあげたのはエルだった。
「す、少し落ち着くのじゃっ!すぐに順を追って説明するっ!」
久しぶりの再会を果たした姉妹だったが、エルは既に康生のことしか考えておらず、リリスもまたそんなエルをなだめようと必死だった。
「落ち着いてエル」
するとそんなエルを見た時雨さんがすぐに止めに入る。
「とにかくまずは話を聞かないといけない。だからまずは落ち着いて」
エルの腕をリリスから離しながら時雨さんは言う。
「そうですよお嬢様。取り乱していては話が進みませんよ」
それに続いてリナもエルをなだめる。
「……分かった」
二人に言われてか、エルはすぐに取り乱すのをやめた。
それでもその目はしっかりとリリスを見据えていて、話を促すようにじっと見つめている。
「そちらも色々あったようじゃが、まずはこちらの話を先にさせてもらうぞ?」
「えぇ、どうぞ」
エルに代わって上代琉生が仲裁に入り、リリスは今まで起こったことを皆に話した。
「そんな……康生が……」
リリスが説明し終わるとエルがショックを隠しきれない表情で呆然と立ち尽くす。
「康生を預かっておいてこんなことになったのは全て我の責任じゃ。本当にすまない」
話終わったリリスはまずはとにかく謝罪の意を込めて頭を下げる。
「…………」
そんなリリスを皆様々な表情で見守る。
時雨さんはエルと同様に悲しむように。リナは自らの主であるリリスに頭を下げられていることに抵抗を覚えつつ、康生の身を案じ、複雑な思いをしているようだった。
そして上代琉生はというと、
「そうですか。それでは次はこちらの状況を説明させてもらいますね」
表情を一切変えずに、今度は自分達の番と言わんばかりに状況を説明しようとする。
「おい、琉生。貴様もう少し……」
そんな上代琉生の態度に時雨さんは空気を読めと注意するように言おうとするが、
「俺たちには今時間がない」
時雨さんの言葉を遮るようにして上代琉生は言う。
「確かに康生が意識不明なのは心配だ。だが、それ以上に今は状況が状況が。とにかく一分一秒が惜しい。だからこそ今は感情を殺して話を進めるしかない」
「それはそうだが……」
時雨さんに向かって上代琉生は淡々と述べる。
上代琉生の言葉が正論が正論なだけに時雨さんは何も言い返せずに言葉を濁す。
「悪いが確かに上代琉生の言うとおりだ。ここはとにかくお互い事情を話して、話を進める方が建設的だ」
とリナさんも上代琉生に同意するように言う。
「ということで、次はこちらの状況を話させてもらいますね」
「あぁ、構わない」
恐らくリリスも同意したのだろう。
上代琉生の言葉に頷き、地下都市の事情を聞くのだった。
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