第360話 急いで

「もしかしてそっちで何かあったのかっ!」

 エルとメルンが懐かしんでいるところで、リリスが割り込むように本題に入る。

『それは俺から話させてもらう』

 するとスマホからはエルと交代して、上代琉生が応答する。

『実は――』




「――なるほどな」

 電話越しに上代琉生からの、現状の人間界の動きを聞いたリリスは一つ一つ情報を整理しながら頷く。

『緊急事態だ。だからこそ康生を呼び戻さなければならないと判断した。それで康生は今どこにいる?』

「康生は……」

 上代琉生の問いかけに対して、リリスが僅かに言葉を濁す。

 リリスはエル達から康生のことを預かっている身だ。

 当然安全に帰すことを約束していた。

 にも関わらず現在意識が目覚めない状況であることに対して責任感を感じているのだろう。

『リリスっ!康生は一体どうしたのっ!?』

 するとそんなリリスの沈黙から、何かよからぬことが起きたと推測したエルはすぐさま声を張り上げる。

「……すまない」

『すまないって何よっ!』

 リリスが一言謝るが、やはりエルの声は収まらない。

『もしかして康生に何かあったの……?』

 何かを感じ取ったエルが恐る恐るリリスにそれを尋ねる。

「……少しだけ待ってくれ。この話は一度きちんと会ってから話がしたい」

『一度会ってって……、そんなの時間がかかりすぎるじゃないっ!』

 異世界人の国から、エル達がいる地下都市までは数日ほどの時間を要する。

 それを知っているからこそ、康生のことが気になるエルは一刻も早く状況を知りたいのだ。

「その点は大丈夫じゃ。なんなら今すぐにでもそちらと会って話をしたい」

『今すぐとはどういうことだ?』

 エルから代わり、リリスの発言を聞いて疑問を抱いた上代琉生が尋ねる。

「これは誰にも言ってなかったのじゃが、そちらの地下都市と我の城を次元空間で繋いでおいたのじゃ」

『次元空間?』

 上代琉生は初めて聞く言葉に疑問を浮かべる。

「そ、それは本当なんですかリリス様っ!?」

 さらには、リリスの隣にいるメルンでさえも声をあげる。

「あぁ。その話についてもしっかりしたい。だからそちらは我が泊まっていた部屋に来てくれ。到着次第、次元の扉を開かせてもらう」

 リリスはあらかじめ仕組んでおいた場所へとエル達を案内する。

『分かったわ!じゃあ会ったらすぐ康生のこと聞かせてもらうからねっ!』

 そんなエルの言葉を最後に、スマホの通話は切れてしまう。

「リリス様……。本当にあの次元空間の中に人間入れていいんですか?」

 電話がきれたあと、静かになった空間でメルンが心配するようにリリスを見る。

「緊急事態だから仕方がない」

 しかしリリスはそんなメルンをなだめるように声をかける。

「よし。すぐに準備にとりかかるぞ」

 そうしてリリスとメルンは部屋を急いで出たのだった。

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