第4章:最後の戦い
第356話 病室
「――中々目を覚ましませんね」
「そうだな……」
病室の中で、リリスとメルンは共にベッドの上で横たわるリリスを見守っていた。
武道大会があった日からすでに三日ほどの月日が経っていた。
それなのに康生は未だ目覚めぬままだった。
リリス達は尽くせる限りの手を打ったが、それでも康生が目覚めることはなかった。
「医者の話では、脳へのダメージが大きくて普通の治癒魔法では対処できないそうじゃ」
「みたいですね……」
リリス達はただ何もすることが出来ぬことのやるせなさを噛みしめながらひたすら康生の無事を願うばかりだった。
「でも……エル様の力だったら治るかもしれないんですよね?」
そんな中、メルンは何かにすがるような視線でリリスを見る。
「エルは治癒魔法のエキスパートじゃったからの。あの力は普通では治せない怪我すら治して見せたことがあった……」
エルならば康生を治せるかもしれない。
当然そんなことは二人はとっくの前に考えていた。
「じゃが、康生をここから連れだそうにも、今や康生は魔界中から注目を集めている」
「そうですよね……。何せ固有魔法である青い炎の魔力暴走を止めましたからね。当然人間界に行かそうとすれば必ず目立ってしまいます」
そう。康生は今や異世界中の注目を集めていたのだ。
当然康生と共に戦ったザグも少しばかりは注目を集めているが、そのザグ自身が全ての手柄は康生のものだと宣言したせいでさらなる話題を呼んだのだ。
リリスの下に強者がいる。
たったそれだけの理由で康生はよくも悪くも注目を集めている。
そんな中康生を移動させようとすれば、誘拐や暗殺など起こりかねない。
そして人間界にそんな強者を送りつけようとなると、再び人との間で大きな戦争が起こりかねない。
だからこそ康生を連れ出すことは出来なかった。
「かと言ってエル様をこちらに呼ぶわけにはいきませんからね……」
「そうじゃな。エルは今や我が父同様の裏切り者じゃ。そんな者がのこのこやって来たらすぐに殺されるか捕まるかのどちらかじゃ」
エルは父親が殺されてすぐに人間界へ逃げ出した。
そして風の噂で、エルが人間達と手を組んでいることは既に知れ渡っている。
だからこそエルをこちらに呼ぶことが出来ず、結果的に手詰まりの状況というわけだ。
「出来ないことを考えてもキリがないだけじゃ。今出来ることの最善をとにかくするだけじゃ」
「そうですね。私も魔道具で何か出来ないか頑張ってみます」
そうしてリリスとメルンは康生の病室を後にし、それぞれの仕事を全うすべく足を進めるのだった。
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