第355話 猶予
「上代様っ!」
地下都市のさらに地下に増設された秘密の部屋。
そこで待機していた上代琉生の元に一人の部下がやってくる。
「……それで、どうだったんだ?」
上代琉生は重苦しい表情のまま、部下に訪ねる。
「それが……やはり上代様の想像していた通りでして。敵は今戦力を集めている状態でありますっ」
「やはりそうか……」
部下からの報告を受け上代琉生は考え込むように目を閉じる。
「やはりこれは避けては通れないか……」
そしてすぐに結論が出たのか、重い瞼をあけて上代琉生は立ち上がる。
「よしっ、情報班は直ちに情報収集にかかれ。あとの者は情報班の支援に全力を注げ!」
「はっ!」
指示をもらった部下はすぐさま暗闇にその姿を隠す。
部下がいなくなったところで上代琉生は再び座ることなく、その足を進める。
「これはすぐに皆を集めないとな」
『連絡しましょうか?』
そんな上代琉生の手元からは突然、AIの声が響く。
「あぁ至急皆を会議室に集まるように言ってくれ」
『分かりました』
そうしてAIに指示を出した後、上代琉生もまた暗闇の中に姿を隠すのだった。
「緊急の用とは一体なんだ?」
上代琉生がAIに指示を出させた後から数分後。
突然の収集にも関わらず、エルをはじめ、時雨さんにリナさんまで地下都市の主要人物達全員が集まっていた。
「たった今情報が入った」
そんな中、上代琉生が中心となり会議が進められていた。
「どうやら中央都市は軍を一カ所に集めているようだ。それも相当な数をだ」
「なるほどな」
上代琉生が話し終わると、すぐにリナさんが反応する。
「つまり遂に我々を狙って動き始めたということか」
リナさんも遠からずこの状況を予想していたようで、大して驚くようなことはなかった。
しかしエルと時雨さんは上代琉生の報告を聞き、しばらく考え込むように無言になった。
「仮に私達を狙っているとして、それはいつ頃動き出すか分かる?」
「それはまだ詳しくは分かりません。今調べている最中です」
「そう……」
エルは僅かに落胆したように声色を落とす。
「恐らく敵の規模は相当な数になるだろうな。それこそ前回の戦いよりも多い数に……」
次に時雨さんが前回の戦いを思い出すように言う。
「そうでしょうね……」
そして上代琉生がそれを肯定する。
前回の戦いですら、隊長達を倒さなければ時雨さん達でどうにかなる数ではなかったのだ。
それがそれよりも倍になるということで、重苦しい空気が漂う。
「まぁ、幸いにも敵が本格的に動き始めるのはすぐというわけではありませんから、しばらくの猶予があります。その間にじっくり作戦を考えましょう」
という言葉で、皆思い思いに意見を述べ会議はしばらくの間続いたのだった。
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