第354話 鍛錬
「武道大会ご苦労であったなザグよ」
ザグの目の前にいる異世界人が笑みを浮かべて言う。
「…………」
しかしそれを聞いても、ザグは表情を曇らせたままで何も言わない。
現在、ザクは各国の選手達に割り当てられた宿泊施設で羽を休めていた。
しかしそうしているのは選手達のみで、各国の代表者達は皆今回の事件の責任問題についてリリスに問いただしているところだろう。
「どうした?そんなに浮かない顔をして。お前らしくもない」
ザグの前にいる異世界人――ザグの国の王はザクを心配するように顔をのぞき込む。
「――俺は負けた」
ザグは自らの国の王に対して淡々と事実を述べる。
「何を言っている。結局決勝戦は有耶無耶になったではないか。それに試合ではお前が一方的に押していた、どこに負けの要素がある?」
シロとの戦いを見ていない王は、康生の力などザグに劣ると思いこんでいるようだった。
だがザグはシロとの戦いで確かに感じていた。
康生の強大な力を。
「これが証拠だっ」
そんな王に対してザグはそっと腕を見せる。
「ん?どうした?その腕が何か……?」
「これはあいつに一撃もらった時のダメージだ。見ろ、一撃もらっただけでこれだ」
そう言ってザグは自らの裾をめくると、ザグの腕には大きな青い痣が出来ていた。
「これは……」
王もザグの痣を見て、驚いたように声を漏らす。
「たった一撃でこれだ。しかもあいつは本気を出していなかった。それに……」
「それに?」
「あいつはシロを、たった一発の拳圧だけで倒しちまった。俺じゃこの怪我があっても太刀打ちできたかどうかの相手をだ」
ザグは自らが思っていることをただ淡々と述べる。
まるで自身に言い聞かせるように。
「……なるほどな。お前がそこまで言うのならば本当なのだろうな」
ザグの話を聞き終わった王は、急に神妙な顔になる。
「となると、現状戦力の差では我らの国は劣っていると……」
王は康生という驚異を聞き、考えを改める。
「――しかし、それほどの逸材を何故今まで隠していたのか……」
そんな王の小さなつぶやきは誰の耳にも届かずに、風に流されてしまったのだった。
(もっと強くならねぇとな)
急に真剣な表情になった王の横でザグもまた、考え事をしていた。
(もっと強く、そしてあいつよりも速く動けるようになりゃ俺は勝てる)
頭の中で今日の試合を思いだし、どうやったら康生に勝つことが出来るのかを考える。
しかし康生の域まで達することがどれだけ過酷な道かはザグは知っている。
だが、だからこそザグはさらなる鍛錬に身を燃やすことになるのだった。
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