第353話 医師
「――何っ!?」
病室の中、リリスが突然声をあげる。
現在この病室にはリリスと、医者達がいる。
そしてそれらに囲まれるようにベッドで眠っているのは康生だった。
「一体どういうことだっ!」
そんな中、リリスが血相を変えて医師の一人に掴みかかる。
「そ、それが脳にひどい損傷を受けているようでして……」
リリスを落ち着かせようとする中、医師は淡々と事実を述べる。
「正直いつ目が覚めるか分かりません」
「そんなっ……」
医師の一言にリリスはその場に崩れ落ちてしまう。
「正直体の方はすぐに治療が出来たため、すぐに再生することが出来ました。しかしそれでもギリギリのところでした。見た目ではそうでもないかもしれませんが、体内は既にボロボロでした」
「そうだろうな……」
医師の説明を聞きながらリリスはゆっくりと顔をあげる。
恐らく、康生の傷の原因はリリスが一番分かっているだろう。
『解放』の力とは本来それほどの技なのだ。
だからこそリリスは康生にあまり使わないように言った。
それでも康生に制御させることで、そこまでのことにはならないようにしていたのだが、どうやらリリス達が到着するのが遅かったようだ。
限界以上の速度で『解放』の力を使ってしまったせいで、康生の体にとんでもない負荷がかかってしまった。
だからこそ、医師が言うように脳にダメージが入ったのだろう。
「そして治療中、一つ気づいたことが」
「なんだ?」
リリスが康生を心配している中、医師の一人が言う。
「血管とは別にある魔力が体内を循環する器官。この患者はその部分が激しく損傷しておりました。まるで今まで魔力を全く使っていないみたいでした」
「…………そうか」
医師の言葉を聞きリリスは思い当たる節があると考え込む。
元々康生が魔力を使い始めたのはここ最近だ。
その間、十年と少しの間魔力は一切使ってこなかった。
だからこそそれも仕方のないものだとリリスは思っていた。
しかし、
「それでその元である心臓と同じ場所にある魔力を生み出すと言われる臓器も同じように損傷していると思い調べてみましたが……」
「どうした?」
「実はこの者の体内にはそれが存在していなかったんです」
「……何だと?」
患者の言葉にリリスは耳を疑う。
何故それは魔法を使う上で絶対になくてはならない器官であるからだ。
「上王様……。この者は一体何者なんでしょうか?」
そして医師もまた、そんな異質な体の康生を見てリリスに疑問を投げかけるのだった。
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