第352話 後処理

「――おいっ!すぐに康生を運ぶのじゃっ!」

 メルンが叫んでいる中、突然一つの声が響いたと思えば、見覚えのあるタンカーが康生の元に来る。

「すまないメルンっ!遅くなってしまったっ!」

 メルンが顔をあげるとそこには荒い息を吐きながらこちらに向かっているリリスと目が合った。

「上王様……」

 リリスの登場、そしてすぐに康生を治療してくれるということからメルンは少し安心感を覚える。

「少し待っておれ」

 リリスがメルンの元へと近づくと、リリスは手にしていた鞭を飛ばした。

 何をしようとしているのかといえば、シロの身柄を拘束しようとしたのだった。

「こいつはすぐに魔力のない空間へ投獄させる。すぐに連れて行けっ!」

「はっ!」

 リリスの指示の元、シロもまたリリスの部下達に運ばれていく。

「遅くなってしまったな」

 シロ、そして康生が運ばれていくのを見送ったリリスはメルンに向き直り頭を下げた。

「……本当ですよ上王様」

 上王であるリリスが頭を下げているが、状況が状況なだけにメルンは悪態をつく。

「リリス様がいれば康生さんはあんなにも傷つかずに……」

 そして同時に康生の身を案じてメルンはさらに心配そうな表情を浮かべる。

「――おいおい、随分と遅い到着じゃねぇかっ」

 すると2人の元へ一人の影が近づく。

 リリスはすぐに視線向け、これまた申し訳なさそうな表情を浮かべるのだった。

「すまない。各国民の避難を優先するあまり、そちらに負担を負わせてしまった……」

 リリスはその人物――ザグに対してもその頭を下げたのだった。

「まぁ、俺は随分と楽しめたからよかったよ」

 そんなリリスに対してザグは、ザグらしい答えで返す。

 冗談でもなんでもなく、恐らくザグは本当にそう思っているのだろう。

「この失態の責任はいずれちゃんとした形でとらせてもらう。だからこそ今は私の謝罪だけで許してくれ」

 しかしリリスはそれでも頭を下げるのだった。

「上王様っ、それよりも康生さんの容態は大丈夫なんですかっ?」

 2人の会話をじっと見守っていたメルンだったが、とうとうこらえられなくなったのかリリスに問いただす。

「あぁ、少し見ただけだがあれはかなり危ない状況だ。幸い治療の準備はすでにさせてあったから恐らくすぐに治療にとりかかれるはずじゃ」

「そうですか……」

 ひとまずは康生の無事を知りメルンは少しだけ安心する。

「全く……あいつも無茶しおって……」

 事件が収集したことで、ほっと一息つきたいリリスだったが、これから先の事件の後処理のことを考えると頭が痛くなるほどだ。

 だがそれでもリリスは康生の容態を心配して、少しばかり康生のことを考えるのだった。

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