第349話 必死
「ちっ、仕方ねぇがその役、俺が引き受けてやる」
「えっ?」
康生が作戦を考えていると、ザグが拳を構えていうのであった。
「認めたくはねぇが、少なくとも今の状態じゃ俺はあいつに決定打を与えられねぇ。だから俺が囮になって奴をひきつけてやるよ」
ザグは顔をひきつらせながら言った。
それだけ本人の中では葛藤が渦巻いているのであろう。
「いいか、だがその代わりに絶対にあいつを倒せよ?元々あれはお前の客なんだからよっ」
しかしそれでも、冷静に状況を判断した結果というわけでザグも何も文句を言ってこなかった。
「……あぁ」
そんなザグの言動に康生は少しばかり戸惑っていたが、すぐにザグの心情を察して返事を返す。
「次の一撃で決めてやる」
そう粋がってみせるのだった。
「へっ、言うじゃねぇか」
ザグもまた、そんな康生の言葉に笑みを浮かべる。
「だが、俺が先に倒しちまったらすまねぇなっ」
「そうなってくれるとこっちも楽なんだけどな」「へっ、言いやがるぜっ!」
お互い最後に言葉を交わす。
そうしてザグは準備が出来るとすぐにシロに向かって突っ込んでいった。
「……っ」
当然シロはザグに対して、攻撃を繰り出してくる。
「おらおらおらぉっ!」
しかしザグはそれを綺麗に避けていく。
だが、
「…………」
シロはザグに対して本気で対処しているという印象を抱けなかった。
それは何故か。
当然、康生を警戒しているからだった。
「だから俺を忘れんじゃねぇって言ってんだよぉっ!」
だがその事実がザグの力をさらに跳ね上がらす。
康生にとどめを託したことでさえも、ザグのプライドが許さないほどのことなのに、ただでさえ囮すら満足にすることが出来ないことがよっぽど悔しいのだろう。
だからこそザグは魔力の暴走している異世界人に対しては、十分過ぎるほど渡り合っていた。
「まだだ……まだっ……」
そしてそれを康生が冷静に見守る。
ザグが確実に隙を作るまで、そしてその隙が現れた瞬間、たとえコンマ一秒でさえも見逃さないように康生は体勢を整えながら攻撃の準備をしている。
さながらその集中力は驚異のものと呼べるものであった。
「おらおらおらおらおらおらぁっ!!!」
そしてザグはひたすらに攻撃を回避しながら、時折拳圧で攻撃を繰り出す。
だが攻撃が出来たのは最初の方だけで、だんだんとザグの攻撃回数が減少していく。
つまりザグが回避に回っているということで、それが意味することはシロの意識がよりそちらへ集中しており、ザグが青い炎を引きつけているということに他ならなかった。
(だけどまだ……)
そしてザグが必死に戦う姿を見ながら、康生はひたすらにそのチャンスを待ち続けるのだった。
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