第344話 安堵

「…………殺す、殺す、殺す。全員、殺すっ!!」

 全員が戦闘体勢になったことに気づいたのか、はたまた敵対されていることに気づいたのかどちらかは分からないが、とにかくシロはゆっくりと腕をあげて康生達を視界に入れる。

「全力で避けろっ!!」

 シロの行動を観察していた康生は咄嗟に大声で叫ぶ。

 その瞬間、一瞬でリング全体にひろがるように青い炎が噴出した。

 康生達は慌ててしゃがむことでそれを防ぐ。

 魔法を使う際の準備も行動も一切シロはしていなかった。

 それなのにこれほどの威力の魔法を一瞬にしてだしたのを見て康生はわずかながらに恐怖を覚える。

「これが魔力の暴走か……」

 リング中央に立つシロを見ながら康生はつぶやく。

 これは本当に最初から全力でやらなければすぐにやられてしまうということに気づいたようだ。

「おいっ!俺は正面からいくぞっ!」

 やがてリングを覆っていた青い炎がシロへと戻っていく。

 それを見たザグが康生とメルンにだけ聞こえるように言った後に全力で走る。

「分かった!」

 ザグが移動するのを見送った康生は、すぐに『解放』の力を使用する。

「康生さんっ!くれぐれも気をつけてくださいね!その魔法は使い過ぎると同じように暴走してしまいますよっ!」

「分かってる!」

 『解放』の力を使ったことでメルンから忠告を受けた康生は、返事を返して一瞬のうちに移動する。

「なっ!?なんだよその速さはっ!!?」

 ザグは一瞬の加速ですでにシロの正面まで到達していた。

 しかし康生はその一瞬の間にシロの背後へと周り、攻撃を繰り出してた。

「っ……!」

 シロは突然現れた康生に驚きつつも、周囲に展開していた青い玉でそれを防ごうとする。

「くっ……!」

 青い玉を防御に使われてしまった以上、康生はそれに触れることは出来ない。

 しかしそれでも康生にはある考えがあった。

「よそ見すんじゃねぇよっ!」

 康生と同じ、とは言わないがザグのスピードも到底常人のものではない。

 だからこそ、康生の攻撃に全ての青い玉を使ったシロの正面からザグが思い切り拳をぶつけた。

「うっ!!」

 その威力は先ほど戦っていた康生なら知っている。

 一度当たれば全身の骨で折れてしまうような、そんなばかげた威力の攻撃だ。

「ぐっ……!」

 しかし同時にザグも右の拳を押さえて苦い顔を浮かべる。

 その隙を見計らってシロは自らの危機を感じて空中へ移動する。

「どうしたっ!」

 空中へ逃げられたことで、康生は一端シロのことを無視してザグの元へと駆け寄る。

 するとザグは康生の顔を見た後、若干言いにくそうにしながらもゆっくりと口をあける。

「……お前との戦いで腕を痛めたんだよ。それがこんなところでひびきやがった」

 と愚痴をもらすようにしてザグは言う。

 しかしそれを聞いて康生は内心少しだけ安心する。

 一部だけだが『解放』の力を使って攻撃したのだ。ダメージはないように思われていたが、やはりダメージは蓄積していたのだ。

 その事実を今更ながら知れたので康生は少し安堵する。

「だが俺のことは心配するな。これくらいのことなんてことねぇよ!」

 そんな康生のわずかな気持ちの変化を読みとったのか、ザグは自らを奮い立たせて立ち上がったのだった。

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