第342話 上空

「それにしてもあれほどの魔力をいったいどこから……」

 宙に浮かぶシロを見て康生はつぶやく。

 現在シロは、宙に浮かびながらもコロシアムを囲う青い炎をその身に集めている。

 遠目からは何をしているか分からないが、それでもいつでも攻撃を仕掛けてくる様子が伺えた。

「あぁ?んなもん魔力の暴走に決まってるだろ」

「魔力の暴走?」

 康生のつぶやきに答えたのザグだった。

 しかしザグの答えを聞いた康生は、聞き慣れない言葉が出てきた思わず聞き返す。

「お前、そんなことも知らねえのか?」

 すると今度は逆にザグが不思議そうな顔で康生を見つめる。

 だがそんなこと言われても、康生は魔力の暴走なんて言葉は聞いたことはなかった。

 一体どういうことなのかと思考を巡らせていると、

「魔力の暴走。それはつまり魔力の使いすぎによるものが原因とされています」

 と横に立っていたメルンが説明する。

「魔力は本来ならば、体内にあるものがなくなれば気絶するのは康生さんは知ってますよね?」

「あ、あぁ」

 魔力をなくなるまで使えば、気絶することは康生はすでに体験済みだ。

「ですが、その状況下の中で、さらに魔力を使おうとすると、体の中の魔力経路が暴走してしまいます。それでも魔力を使おうと体は勝手に動き、術者の意識を乗っ取ったまま体外の魔力勝手に使って魔法を使おうとする状態のことです。それを魔力の暴走といって、自身の近くにある魔力全てを吸収して自身が死ぬまで魔法を放ち続けることをいいます」

「死ぬまで……」

 その言葉を聞いて康生は上空のシロを見上げる。

 魔力がなくなってまで使おうとする極限状態は康生には想像できないが、現在空中から向けられる敵意に康生は納得せざるをえなかった。

 そしてさらにメルンの説明を聞いてすぐにあることを考える。

「つまり……あの時リリスが言っていた言葉。『解放』の力を使いすぎると死ぬっていうことは……」

「はい。つまり魔力の暴走が起きてしまい、康生さんが死んでしまうということです」

 メルンの説明を聞いて、康生はようやくリリスの言っていた意味を理解することが出来た。

「だからこそ、この大会でも無茶をしない為という意味もこめて『解放』の力を使用することをリリス様は禁止されたんですけど……」

「ご、ごめん、思わず使ちゃったよ……」

 メルンに視線を向けられ康生は思わず謝る。

「なんだぁなんだぁ?『解放』の力?もしかしてそれがお前が隠し持っている力なのか?」

 と、今までの話を聞いていたザグが話に入ってきた。

「あっ、いや別にこれはっ!」

 それに対してメルンが慌てて否定しようとするがすでに遅いことだった。

「まぁ、なんだか知らねえが。もうのんきに話している時間もなさそうだぜ?」

 そういうと同時に康生は上空を見上げる。

 すると今までコロシアムを包んでいた青い炎が消えていたのだった。

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