第340話 視線

「おらおらおらぁっ!」

 接近して攻撃してきたかと思えば、すぐに後退する。

 そして接近してきた時の攻撃はだんだんと激しく、そして数が多くなってきている。

「ぐっ……!」

 そんな中、康生はやはり防戦一方で反撃にでることができずにいた。

「どうしたぁっ!もう一度あの力を使ってみろよぉ!俺はお前の全力と戦いたいんだよぁ!」

 ザグはそんな康生を見てさらに大声をあげて、攻撃を激しくする。

 恐らくザグは『解放』の力を使うように誘導してきている。

 しかしそれを使うことは禁止されている以上、康生はそれを公に使うことができない。

 そうした事情もあり、現在の戦いは膠着状態になっていた。

「くそっ!まだ使わなねぇかっ!」

 だんだんとザグも、そんな康生の態度にいらいらが溜まってきているようだ。

 ザグはどうしても本気の康生と戦いたいようで、ただひたすらにそのいらいらを攻撃にぶつける。

(このままでは……っ!)

 状況が長引けば長引くほど、康生が不利になっていっているのは分かる。

 だからこそ何かこの状況を変える一手がほしいのだが……。

「おらおらおらおらおらおらっ!!」

 ザグの猛攻撃のせいでその隙すら与えてくれない。

 勿論『解放』の力を使えば、多少戦闘の幅が広がる。

 しかしそれをやってしまえばリリスとの約束を破ってしまうことになる。

 康生はこれ以上リリスに迷惑をかけることができずにいるのは、それだけは絶対に避けなければならない。

 だがしかし……、

「ぐっ……!」

 ギリギリのところでザグの攻撃を防いでいるものの、やはりそれが長く続けば防ぎきれない部分が出てくる。

 そうして、先ほどから徐々にだが康生にダメージが蓄積していってきているのだ。

「くそっ!」

 康生は攻撃を防ぐことを最優先させながらも、この状況を打破する方法を頭をフル回転させて考える。

 魔力はまだたくさん残っている。

 しかしどんな魔法を使っても、ザグに勝てる未来が見えずにいた。

(一体どうすれば……!)

 康生は焦燥感にかられてしまい、まともな思考すらできずにいた。

「そんなに使わなねぇならもう終わりにしてやるよぉっ!」

 とうとう痺れを切らしたのか、ザグが攻撃の手をやめてくる。

 何か大技でもするつもりなのか、そう康生が身構えた瞬間、


「な、なんだぁっ!?」


 ザグの大きな声と共に、コロシアム一体から青い炎が吹き出してきたのだった。

「あ、あれは……」

 その青い炎に見覚えのある康生は、まさかと思いながらも視線を移動させ、目的の人物を探すのだった。

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