第339話 噴出

「上王様っ!」

「なんじゃ、メルンか」

 コロシアム全体を見渡せる、一番上に作られた特別な部屋。

 そこにはリリスが一人、豪華な椅子に座ってコロシアム内の試合を眺めていた。

 そんなところに、突然メルンが押し寄せてきた。

「見ましたか?さっき康生が『解放』の力を……」

 ザグと康生の試合を見ていたメルンは、わずかながらだから、『解放』の力を使ったことにどうやら気づいたようだった。

 リリスと話して、あれは禁じるように言っていたはずだったのにそれが使われたと知ったメルンはすぐにリリスの元へと報告に来たのだろう。

「あぁ知ってるわ。それに今回の試合だけじゃない、前の試合でも一度だけ使っていたわ」


「前の試合でも……」

 メルンは前回の試合を見ていなかったので、どうやらその事実は知らなかったようだ。

「まぁ、前回は煙の中で使っただけじゃ。恐らく誰にもばれてないじゃろう。じゃが、前回の試合で康生は魔法を乗っ取る力を使ってしまった。あれもあまり使わないように言っておいたが、やはり相手が悪かったの」

 未だ、コロシアム内で戦っている二人を見ながらリリスは淡々と述べる。

「でも、ザグは『解放』の力で攻撃しても平気な様子でした……。これは本当に負けてしまうのではないでしょうか?」

 リリスの横に並び、同じく試合を観戦するメルン。

 康生が苦戦している姿を見て、心配そうな目を向ける。

「どうじゃろうな……。じゃが『解放』の力は強大過ぎる。一度それが公になってしまえば、康生の身も狙われ、いずれ我が国に進行してくる軍もでるじゃろう。じゃからこそあまり公にはしたくないのじゃが……」

 メルンと同じく、リリスもまた不安そうな表情をコロシアムに向ける。

「じゃが、この試合で負けてしまえば国民の信用が下がり、他の国への発言権すらも弱くなってしまいかねない」

「そうですよね……。やっぱりあの時、私も強く反対しておけばよかったです……」

 メルンは過去を悔やむように、苦い顔を浮かべる。

 ここでいうあの時とは、リリスがこの試合を開くきっかけとなった出来事。会議の場で、恐らくリリスの失脚を狙っている者達が協力して無理矢理開催することになったことを言っているのだろう。

「まぁ、そんな話をしてもしょうがない。結局は我が了承したのだ。それにこれも康生のためでもある。みろ、あいつは楽しそうに戦っているじゃないか」

 そうリリスが指さし、メルンがそれを視線で追った。

 しかしその瞬間、


「な、なんじゃっ!?」


 コロシアム一体に響くような大きな爆発音とともに、コロシアム周辺から青い炎が噴出したのだった。

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