第338話 苦渋

「まじかよ……」

 『解放』の力で攻撃したはずの康生だったが、それを受けて平気な表情を浮かべるザグを見て康生は畏怖の念を抱いた。

 何故か。康生は頭の中でひたすらに推論を浮かべる。

 『解放』の力で攻撃したのだから、骨の一本や二本などではなく、普通ならば腕がなくなるほどの威力を誇っているはずだ。

 それを部分展開してしまったから正直、威力は半減したが、それでも相当な威力を誇るはず。

 なのにザグの腕は何もなかったかのようにぴんぴんとしていた。

「あぁ?何をそんなに驚いてるんだよ?」

 そんな康生の表情を見て、ザグが不思議そうに尋ねる。

「お前、どんだけ頑丈なんだよ……」

 すると康生は思わず、今の気持ちを正直にぶつけてしまう。

「はっ!俺の取り柄は魔法でも武術でもなく肉体だっ!俺の肉体はどんな攻撃にも耐えるようになっているんだよぉ」

 そう言ってザグは獰猛な笑みを浮かべる。

 しかしすぐに自分の腕を見て表情を変える。

「だが、これだけのダメージを受けたのは久しぶりだぜ。お前やっばり相当な力を隠してるな?」

 ダメージを受けたとう割には、見た目からはそれは伺えないが、ザグがそうまでして言うのであれば恐らく本当なのだろう。

 だが半減した『解放』の力で殴っただけで、ようやく少しダメージが入るだけなのだと知らされた康生は少しの焦りを浮かべる。

 本来ならば『解放』の力はあまり多用しないようにするもの。

 しかし『解放』の力でしかダメージが入らないのでは、使わないわけにはいかない。

 だが全力で使ってしまうのはリリスに強く止められているので、康生はひたすらに考える。

「なんだかよく分からないが、その力すぐに引き出させてやるよぉっ!」

 康生が持つ、未知なる力を見るためにザグはさらなる攻撃を仕掛けてくる。

「くっ……」

 今度の攻撃はただひたすらに殴り続けるのではなく、一撃一撃の精度をあげたものだった。

 姿を消したかと思えば、すぐに康生の近くに現れて攻撃を加える。

 それが防がれるとザグはすぐに移動して康生から距離をとる。

 攻撃をしては距離をとり、距離をとっては攻撃を仕掛けてくる。

 そんな今までの行動からは少し違う攻撃を受け、康生はさらに頭を混乱させた。

「はっ!どうだっ!このままいけばいずれお前は倒れるぞ!?」

 じりじりとダメージを受けていく康生を見て、ザグはあざ笑うかのように声をあげる。

 まるでじわじわとなぶり殺すかのような攻撃に康生はどんどんと精神を削られていった。

「……このままじゃ」

 ザグの攻撃を防ぎながら、康生は思考をする。

 しかしいくら考えても、ザグに勝つためには一つの作戦しか思いつかない。

 でもそれをすれば……。

 康生は苦渋の選択を目の前に苦い顔を浮かべるのであった。

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