第336話 猛攻

「なっ!?」

 ザグの姿が一瞬にして消えてしまい、康生は思わず動揺してしまう。

「おいおい、この程度で驚いてもらっちゃこまるぜぇ?」

「っ!!」

 その瞬間、康生は瞬間的に『解放』の力を使用してしまった。

 何故ならば目の前にいたはずのザグの声が背後から聞こえてきたからだ。

 強制的、とでもいうように康生は自身を守るために、半ば生存本能が働いたのだろう。

 とにかくあれほど使わないように言われていた『解放』の力をあっさりと使ってしまった。

「っ、おいおいなんだよそれはっ!すげぇ力を持ってるじゃねぇかぁ!」

 そしてそれを見たザグは嬉しそうに口角をあげる。

 見るとザグは先ほど康生がいた位置に立っていた。

 つまりあの一瞬の間で、康生の背後へと移動しのだ。

「風の魔法?いや、それだけじゃ説明がつかないぞ……」

 『解放』の力を使ってしまったことを悔やみながらも、それでも康生は敵の分析を続ける。

 風の魔法の力だけではあれほどのスピードを出すことは出来ない。

 それは康生も知っているはずだ。

 だからその他の要因があるはずだと康生はさらに思考を続ける。

「あぁ?なんだぁ?これ仕掛けが知りたいのか?」

 そう言うとザグは自らの靴を指さす。

「……なるほど」

 その動作を見ただけで康生はおおよその予想をたてた。

 つまりザグがはいている靴が魔道具で、それが関わっているのだろう。

「ったく、なんだよさっきからよぉ?そんな難しい顔しないでもっと試合を楽しもうぜぇ?お前はまだまだ力を隠していたみたいだしよぉ!」

 康生が頭を働かせている中、ザグはそれに退屈したのか再び戦闘体勢をとる。

 そして、

「じゃあ今度は手加減しねぇからなっ!」

 そう言った瞬間にザグの姿がリングから消える。

「あぁ、分かってるさ!」

 すると今度は康生もそれに応じて風の力を使用する。

「おぉっ!中々やるじゃねぇか!けど、さっきの力に比べるとスピードが落ちてるみたいだけどよぉ!」

 康生が風の力で移動し、そのあとにザグの姿が現れる。

 かと思えば、今度はザグが姿勢を変えて再び高速移動して康生に迫るので、康生はそれをギリギリのところで回避する。

(見えない相手か……。あの時以来だな……)

 ザグの見えない攻撃を寸前のところで回避しながらも康生は地下都市での出来事を思い出す。

(あの時はAIの力を使って攻撃を回避してたからな。つまり今はあれからの成長を確かめるチャンスというわけかっ)

 ザグの猛攻に耐えながらも康生は、実力を試すという意味でわくわくした感情を芽生えさせたのだった。

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