第333話 決勝

「大丈夫じゃったか康生」

「リリスっ」

 ここは康生の病室。

 先ほどまでメルンが康生にたくさん心配した旨を話していたのだが、やがて疲れたのか康生の無事を確認するとどこかへ行ってしまったあと。

 一安心ついていたところにリリスがやってきたのだった。

「うん。おかげさまでなんとか大丈夫みたい。それにしてもやっぱり魔法ってすごいんだね。あんな傷がもう治りそうだよ」

 リリスがベッドの隣にイスに腰掛け、康生の傷を確認する。

 康生はそんなリリスに傷があるところを見せ、無事を確認させた。

「もしここにエルがいたなら、そんな傷一瞬で治せたのだがな」

「確かにエルの魔法はすごかったですね……」

 懐かしい名前が出て、康生は地下都市にいる人達を思い出す。

「あれの回復魔法は我々の世界では1、2を争うほどのものじゃった。なのに勝手に出て行きおって……」

 とリリスもエルのことを思い出したのか、懐かしそうに目を細めたのだった。

「それにしてもその様子じゃと、しばらく休めば次の試合に望めそうじゃな」

「はい、大丈夫です」

 康生の傷の具合を確認したリリスは、それだけ言うと立ち上がる。

 本当にただ康生の容態を確認しにきただけのようだった。

「あっ、リリス!そういえば行方不明になった異世界人は……」

 立ち去ろうとするリリスを見て、康生は思わず呼び止める。

「あぁ、あの件か」

 呼び止められたリリスは康生の方をちらりと向く。

「その件についてはもう片づいたから心配いらないぞ」

「え?てことは決勝で俺と戦うあの異世界人は……?」

「ん?何を言っておるのじゃ?」

「え?」

 ここで康生はようやく今回の事件の真相に気づくことになった。

 康生が今まで犯人だと思っていたあの異世界人は、どうやら違うようで、むしろ証拠を持ってきてくれたようだった。

 それなのにどうして勘違いしてしまうような言動をしたのかは康生には分からないが、それでも今から戦う異世界人は少なくともいい人であることが康生には分かった。

「――まぁ、そういうわけじゃから、決勝戦までゆっくり休んで魔力を回復させておけ」

 ということで本当に用事が済んだリリスは病室をあとにする。

「分かったよ。わざわざありがとうリリス」

「ふんっ。これくらい大したことじゃないわっ」

 そう言ってリリスは病室を後にしたのだった。

「決勝か……」

 リリスがいなくなり、病室に一人残った康生。

 最後の戦いに向けて、険しい表情を浮かべるのであった。

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