第332話 拘束

「…………ここは?」

 純白のベッドの上に横たわっていた少女が、ゆっくりとその目を開く。

 しかし今自分がいる場所が分からないようで、きょろきょろと辺りを見渡している。

「っ……!」

 だがそうして周囲を見渡そうとすると、体に激痛が走ることになる。

 みると少女の体は全身が包帯で覆われており、いつもならば動くであろう腕や足すらも感覚が全くない状態になっていた。

「そうだ……」

 しかし少女は何かを思い出したかのようにつぶやく。

 そうしたかと思うと少女は動かない手足を無理矢理に動かしベッドから出ようとする。

 無理矢理だからか、少女がベッドから出ようとするとすぐに警告音のような音が響いた。

 しかし少女はそれを無視しベッドから出ようとするあまり、ベッドの上から落ちてしまった。

「うっ……」

 少女はそれでも、痛みに耐えながらも床をはいつくばって進もうとする。

 何がそこまで少女を動かしているのか。

 恐らくそれは普通の人ならば分かることはないだろう。

 だが少女にとってそれは、自身の命よりも大事なものなのだ。

「エ、クス……」

 その目にしっかりと焼き付いたその人物の姿を見据えながらも少女はひたすらに手足を、体を動かし進もうとする。

 少女――シロにとって命令は絶対であり、そして失敗は自身の死を意味している。

 だからこそこんなところで休んでいる暇はないのだ。

「――何してるんだぁ?」

 次の瞬間、少女の目の前に二本の足が現れた。

 突然のそれに驚きながらも、少女は精一杯顔をあげてその人物をみる。

「あな、たは……」

 その人物とは、先ほど決勝進出が決まった選手だった。

 そう。康生と決勝で戦うことを約束した異世界人だった。

「お前、そんな体であいつを殺そうとしてるのかよ?」

 その異世界人は、シロの姿を見て哀れなものでも見るかのような視線を向ける。

「そ、う……。あ、いつを、殺す……っ」

 シロは掠れる声で必死に訴える。

 だが異世界人はそんな言葉を聞いて、ただただ冷酷に言い放つ。

「いいか?あいつを倒すのは俺だ。それにお前はもう負けたんだよ。敗北者は敗北者らしく、身分をわきまえろ」

 冷酷に語られた言葉と化したナイフは、無惨にもシロの心を傷つけていく。

「ま、だ……っ」

 しかしそれでもシロは諦めないといったように口を開く。

「何がそこまでお前を動かしているのか……。まぁそれは俺には知ったこっちゃねぇけどな」

 異世界人はめんどくさそうに頭をかきながらつぶやく。

 そして、

「まぁ、とりあえず俺の試合だけは邪魔するんじゃねぇ。あいつは俺が倒す。だからお前は一人で休んでろ」

 そう言うと同時にシロの華奢な体が宙に浮かぶ。

 そしてシロの体は再びベッドに戻ると同時に、異世界人の手によって、手足を拘束されたのであった。

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