第331話 映像

「――くそ!」

 光がなく、薄暗い場所で一人の異世界人が悪態を吐きながら壁を蹴る。

 当然壁は傷つくことはないが、それでも男は苛立ちを大きく見せながらひたすらに蹴り続ける。

 まるでそうすることで、自身が楽になるとでも思っているかのように。

「どうすれば……!」

 しかし当然そんなことで男の苛立ちが収まるわけがなく、逆にひたらに苛立ちが募るばかりだった。

「これも全てあいつが失敗したせいで……!あいつがエクスを殺していればっ……!」

 男は恨み言を言いながら今度は頭をむしる。

「……いや待てよ。まだ終わってない」

 しかし何やら思いついたかのように顔をあげる。

「あいつは使い物にならなくなった。だが、まだ殺すチャンスがないわけではない。敵はシロとの戦いで大きな負傷を負った。その体を狙えばすぐにでも……」

 男は康生を殺す算段を頭に思い浮かべると、薄気味悪い笑みを浮かべた。

 そしてすぐさまそれを実行するべく、その場所をあとにしようと足を動かした瞬間、

「なっ!?」

 突然現れた何かに男は両足を拘束された。

 かと思うと、すぐにまた別の場所から現れたものに両手を拘束される。

 一瞬の出来事で何も反応することが出来なかった男はただただ狼狽する。

「だ、誰だっ!?」

 暗闇の先。この拘束を仕掛けてきた相手を見据えて男は叫んだ。

 しかし声は何も返ってくることなく、ただただ拘束してきた物がひたすらに締め上げる。

「ぐっ……!」

 男は必死に拘束から逃れようとするが、中々抜け出せずにいた。

 その拘束――鞭はどうやら相当頑丈なもので出来ているようだった。

「――探したぞ?」

 すると、小さな声とともに闇の中からリリスが現れる。

「き、貴様はっ!?」

 リリスが現れた途端に男は若干の恐怖の表情を浮かべつつも、すぐに表情を切り替える。

「き、貴様!?こんなことをしていいと思っているのか!?俺は貴様が開催した大会に参加している一国の王だぞ!?」

 すぐさま男は自身の立場を交えて叫ぶ。

「あぁ、十分分かってるぞ」

 しかしリリスはそれに動じることなく淡々と述べる。

「だが貴様は、我の国で殺人を犯したな?」

「なっ、なんのことだ!」

 リリスの問いかけに、男は必死に反対する。

 しかし、

「正確には殺人を依頼したのだが……その話は後々にしていこう。どの道、証拠はとれているからな」

 そういうと、リリスは懐から一枚の写真を取り出す。

「こ、これはっ……!」

 そこには男がシロに依頼した瞬間がおさめられていた。

 さらに、

「こんな映像もあるぞ?」

 そうして流れたのはシロが実際に殺人をした映像だった。

「っ…………」

 ここまでの証拠を提示されて言い逃れが出来なくなった男はただただ黙ることしか出来なくなった。

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