第328話 事情

「いくぞっ!」

「っ!」

 お互いがお互いに戦意をぶつけ合い、康生とシロが傷ついた体を無理矢理に動かしながらも走る。

「はっ!」

 まずは康生が先制攻撃を入れる。

 大きく振りかぶってのグローブでのパンチだ。当然シロは隙だらけの攻撃をすぐに回避する。

 いつもならここで、その隙に攻撃を入れようとするシロだったが、体が思ったように動かないのか、攻撃を回避するだけで精一杯の様子だった。

「くっ」

 そのことに対してシロは苛立った表情を見せながらも、それでもすぐに攻撃を移ろうとする。

 今度はシロが、からぶりした康生の腕めがけて攻撃を繰り出そうとする。

 この状況でも、シロは確実に相手に勝つため。敵の攻撃手段を絶とうという思惑のようだ。

「くそっ!」

 しかし康生も易々と攻撃をくらうことはなく、必死にシロの攻撃を避けようとする。

 そのためか、足のバランスを崩してしまい康生はその場で尻餅をついてしまう。

 そうなるとやはりシロがここぞと言わんばかりに、康生に向かってさらなる攻撃を仕掛けていく。

「…………」

 シロは表情を殺し、わずかながらに精神を集中させてその手に青い炎を宿す。

 しかしそれは最初の時のように膨大な量の青い炎ではなく、ただ小さな炎が浮かぶだけだ。

 しかしそれでも十分驚異であることは変わらない。

 それほどまでにこの青い炎の力は増大なのだ。

「ぐっ……!」

 そしてそれを見た康生もすぐに回避しようと行動に移る。

 無理に立ち上がろうとせずに、康生は地面についた状態のままで応戦しようとする。

「はっ!」

 咄嗟に腕を動かして、シロが青い炎を出現させた腕を狙う。

 シロは集中していたせいか、咄嗟の攻撃に反応出来ずに、康生の攻撃が直撃してしまう。

「っ……!」

 腕を殴られたことにより、青い炎が一瞬のうちに消えてしまう。

 だがシロはそこで動揺することなく、すぐに次の一手に移る。

 しかしそれも康生も同じで、すぐに体勢を立て直すと同時にすぐに攻撃に移ろうとする。

 二人はそんなギリギリの戦いを続けるのだった。


「――中々やるじゃねぇか」

 そんな試合を遠くで見ている者が一人。

 そいつは康生で決勝と戦うことを約束した異世界人だ。

 康生との戦いを望んでいるからか、シロと康生の熱い試合を見てどうやら自分も参加したくてウズウズしているようだった。

「ようやく見つけましたよ」

 とそんな異世界人の背後から一つの声が聞こえる。

 振り返るとそこにはメルンが立っていた。

「あなたにはしっかり事情を話してもらいます」

 そう言ってメルンはその異世界人に近づいていったのだった。

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