第327話 戦意

 大きな爆発音がリング一帯に響いた。

 それと同時に、今までリングを覆っていた青い炎が一瞬のうちに広がる。

 一気に膨張された空気は、観客席の方にまで届き、ひとときの熱風が観客を襲う。

 そんな一瞬の出来事に、戦いを見ていた者誰もが反応出来ずにいた。

 そして誰もが思っただろう。選手の二人はどうなったのかと。

 観客席ですらここまでの熱風が届いてきたのだ。

 となれば、それを中心で食らった二人の選手はどうなったのかと、そんな考えがすぐに浮かぶ。

 だが青い炎は一向にリングからいなくならず、ゆっくりとその姿を消していく。

 そんな少しの時間、観客達は静かにリングの中を見守る。


「――がはっ!」

 青い炎がリングから消えかかろうとしていた時、リングの中から一人の声が聞こえた。

 そう。その声は康生の声だ。

 青い炎が晴れた場所。つまりリングの隅で康生は息を必死に吐き出しながらも立ち上がっていた。

 あれほどの攻撃を直接受けてなお、立ち上がっている姿を見て、観客の誰もが康生に対して畏怖の念を抱く。

 そして同時に、それがリリスの国自体に向けられることになる。

 しかしそんなことが起こっているなど知らない康生はただひたすらに息を吐き出して、自身の傷の応急処置を施していた。

 康生は、両肩から大きく血を流しているものの、立ち上がっているところを見るに足は大したけがをしていないようだった。


 だが一番ひどかったのはその体だ。

 青い炎にあてられてか、胴体が大きな火傷の傷でえぐられていた。

 それを荒治療で治す。荒治療なので、水系統の魔法で簡単に処置するだけだ。

 だからか康生に激しい痛みが伴うが、今はそんなこと気にしてはいられない。

 何故ならば、康生の視線の先。

 康生とは反対方向に視線を向けると、そこには手を地面につくシロの姿が。

 シロもまた康生と同じように負傷しており、特に火傷跡が目立つ。

「どうしてっ……」

 シロは康生の姿を目視すると、驚愕と疑問の混じったような表情を浮かべる。

 これほどまでの高威力の魔法。特に最後の手段のように放たれた魔法だからか、康生が生きていることに対してひどく気が動揺しているようだ。

「ふぅ……」

 そんなシロに対し、康生は自身の体を応急手当した後に、ゆっくりとシロへと視線を動かす。

 康生のその表情からはまだ戦意は失われていなかった。

 そしてそれはシロも同じだ。

「いくぞっ!」

「……っ!」

 康生がシロに向かって走ると同時に、シロもまた動きだす。

 お互いがお互いに傷つきながらも、再びその戦意をぶつけ合おうとしていた。

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