第326話 爆発音

「はっ!」

 康生が勢いとともに声を張り上げると、全方位から迫ってきていた青い炎がわずかながらに動きを止めた。

「……っ!?」

 その光景を見たシロは、初めてといっていいほど大きくその表情を崩した。

 それもそのはず。シロが操っているはずの青い炎が、シロの意志関係なしに動きが鈍化したのだ。

 普通はこんな現象はまず起こらない。

「何をした……」

 静かに怒りを込めながらシロは康生を睨む。

「何だろうなっ!」

 しかし当然、康生は秘密を教えることをするわけでもなくシロに向かって攻撃を仕掛けようとする。

 『解放』とは違った康生の新しい力。これこそが『解放』を完成させるためにシロから教えてもらった技の一つだ。

「くっ!」

 青い炎が使えないと知った瞬間、シロはすぐさま攻撃を切り替える。

 そして同時に新しい青い炎を生成して再度康生に向かって放出する。

「おっと」

 しかし康生はその攻撃を慣れた様子で回避する。

 どうやらシロの気が動転しており、魔法を使うことに集中出来ていない様子だった。

「このまま終わらせるっ!」

 下降する力と一緒に、康生はシロめがけてグローブを構える。

 当然そのグローブには攻撃力が一番高い雷の魔法が付与されている。

「いっけぇっ!」

 シロの頭上から、康生の渾身の一撃が放たれる。

 不可思議な力に気が動転していたこともあり、シロは不覚ながら反応に遅れる。

 だが、流石は一流の暗殺者。

 どんなことがあろうともすぐに正気を取り戻し、目の前の出来事に冷静に対処しようと頭が働く。

「ぐっ」

 シロはわずかに遅れながらも、即座に横に回避しようとする。

 だが反応がわずかに遅れてせいで、シロの右腕にグローブがかする。

 少しかすっただけだが、シロの右腕は痺れるように動かなくなる。

 一瞬にして痛覚が消えるほどのダメージを負う。

「まだまだっ!」

 たった一回攻撃が回避されたことで、康生は次の手を休めることなくひたすらに攻撃を繰りだそうとする。

 このチャンスを逃すまいと康生も必死なのだ。

 事実、シロは絶対的ピンチに陥っているのだから。

 だが、

「私は、負けるわけにはいかない。お前を殺すまでは絶対に死ねないっ!」

 シロが初めて大きく声をあげる。

 初めて向けられる感情に康生は若干の戸惑いを感じつつも攻撃の手を休めることはしなかった。

 しかし、シロはその攻撃を寸前のところで回避してみせる。

 そして、

「くらえっ!これが私の力だっ!」

 シロが攻撃を回避すると同時に康生の懐に潜り込む。

 そして右手を康生にかざした瞬間、大きな爆発音とともにリング一帯を青い炎が包み込んだのだった。

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